マルシェで作るハンドメイドの“輪”

2025.04.24
マルシェで作るハンドメイドの“輪”

西東京市ひばりが丘のシェア施設「HIBARIDO(ひばりどう)」にある1坪の店舗で、2024年にハンドメイドショップ「Handmade My 町のミシン屋さん」をオープンした吉田真弓さん。4人のお子さんの子育てをしながら、お店だけではなく、ママ友2人と共にマルシェも運営しています。自分の作品の制作や販売だけでなく、マルシェやお店を通してハンドメイド作家が活躍できる場所をつくっている吉田さんに、お話を聞いてきました。

きっかけは、子どもの移動ポケット

小さい頃から手芸が好きだったという吉田さん。高校は、商業や工業、情報処理といった専門的なことが学べる総合学科に進み、選択授業で被服を選びました。そこで初めて子ども服を作ったそうです。

「出来上がってみたら、すっごくかわいかったんです。子ども服は小さく、ほんの少しの布でこんな風にできちゃうんだという感動がありました」

元々人と接するのが好きだったこともあり、高校卒業後は接客業に就きました。しばらく創作活動からは離れていましたが、結婚・出産を経て長女が4歳の時、再びハンドメイドと出会いました。

「娘のお友達が移動ポケット(洋服にポケットがなくても、ハンカチとティッシュを一緒に持ち歩ける移動式のポーチ)を付けていたんですよね。『それなあに?』と聞いたことが、始まりでした。高校の頃に被服を学んでいたので、これならできそうだと思ってやってみました」

きっかけとなった移動ポケットは、ずっと作り続けているアイテム。今でも店頭に並ぶ。生地選びのポイントは、仕上げた時に自分でかわいいと思えることだそう
きっかけとなった移動ポケットは、ずっと作り続けているアイテム。今でも店頭に並ぶ。生地選びのポイントは、仕上げた時に自分でかわいいと思えることだそう

久しぶりの手仕事は楽しく、つい作りすぎてしまったと吉田さんは話します。そんなところに声をかけてくれたのが、自身もハンドメイドを作っている幼稚園のママ友でした。

「『西東京市の商店街のアーケード下で毎月フリーマーケットをやっているよ』と教えてくれて。たくさん作ったし、お小遣いくらい稼げたらいいかな、という軽い気持ちで出店してみました。でも最初からうまくいったわけではないんです。当初はハンドメイドだけではなく、古着を売ったりもしましたね。それが徐々に知れ渡って定期的に来てくれるお客様もできました」

トートバッグなどの袋物は、近隣の方に人気の商品。「あなたの柄合わせが好き」と言ってくれるリピーターの方も
トートバッグなどの袋物は、近隣の方に人気の商品。「あなたの柄合わせが好き」と言ってくれるリピーターの方も

“箱”で自分の力を試して

3年ほどフリーマーケットへの出店は続き、だんだんと自分のハンドメイド作品がどれだけ受け入れられるのか、力をもっと試してみたくなったと言います。ちょうどその頃、フリーマーケットの規模縮小が決定したこともあり、吉田さんは次の場所を探すことにしました。

そこで選んだのが自宅の近くにある、地域コミュニティセンター「ひばりテラス118」。委託販売のためのレンタルボックスが常設されており、契約者が自由に商品を置いて売ることができます。

「箱の料金しかかからないというのは魅力的でした。最初はヘアゴムや移動ポケット、小さめのハンカチといった子供用品をメインに置いていました。今は、がま口やミニ巾着、カップホルダーといった小物も置いています」

店主の吉田真弓さん。「日常を彩る布小物」をテーマにハンドメイドを制作する
店主の吉田真弓さん。「日常を彩る布小物」をテーマにハンドメイドを制作する

ひばりテラス118では3カ月に一度、「にわマルシェ」が開催されています。ハンドメイド雑貨の販売やワークショップなどが行われ、キッチンカーの出店もあります。

「にわマルシェには2018年の一回目から参加しています。当初は、お客様もそこまで来なかったのですが、今ではすっかり地域に根付いたマルシェとなっています。出店者の公募はしていないので、契約者だけがマルシェに出店できる特典は大きいですね」

ひばりテラス118の委託販売は、前述のフリーマーケットに声をかけてくれた幼稚園のママ友とその友達も契約をしています。二人も「にわマルシェ」に出店しており、ハンドメイドを手がけるママ友3人で交流を深めていきました。

吉田さんのお母さん作のがま口も。フリーマーケット時代から、母と共にハンドメイド作品を制作してきた。和テイストのがま口には、敢えてポップな柄を。北欧系の柄と合わせることも
吉田さんのお母さん作のがま口も。フリーマーケット時代から、母と共にハンドメイド作品を制作してきた。和テイストのがま口には、敢えてポップな柄を。北欧系の柄と合わせることも

コロナに負けない!ママ友と始めたマルシェ

しかし2020年、世界はコロナ禍に突入し、マルシェも激減。マルシェに参加できない状況が続く中、ママ友3人で「小規模だったら自分たちでもできるかもしれない」と、マルシェ開催に向けて行動を始めます。

「せっかくやるなら、部屋も借りやすいし自分たちが委託販売している場所がいいよねという話になりました。それに、この場所を近隣の人たちだけではなく、他の人にも知ってほしい。マルシェをきっかけにいろんなお客さんに来てもらって、どういう施設なのかを知ってほしい。そんな思いもありました」

出店料の設定から出店者集め…わからないことばかりでしたが、チラシづくり担当、人集め担当、経理担当というように、三人がそれぞれ得意な分野を担うことで乗り切りました。

ママ友2人とマルシェの打ち合わせ。今後もこの3人で続けていきたいとのこと
ママ友2人とマルシェの打ち合わせ。今後もこの3人で続けていきたいとのこと

こうして2023年4月、ひばりテラス118で第1回目の「HIBARI de marché」が開催されました。当初は、声のかけやすさから出店者をひばりテラス委託販売契約者に限定していましたが、今は「いろんな所から作家さんに出てほしい」という思いで、インスタグラムで広く出店の公募をしています。

「作家デビューを、ぜひここから始めてほしいと思っています。なのでマルシェに参加したことのないという人も、もちろん大歓迎です。HIBARI de marchéから始めて、今すごく売れている作家さんもいるんですよ」

最大で15店舗が出店できるこのマルシェは毎月開催され、出店者満員御礼の状況が続いているとのことです。公募することでフードの出店者にも来てもらえるようになり、今年3月の開催ではこれまでで一番お客様が来たそう。また、物品の販売だけではなくワークショップを開催することで、リピーターのお客様もつくようになりました。

「自分たちの商品が並ぶ場所を広めたいという当初の目的は達成できました」。吉田さんは満面の笑みで、そう語ります。

ひばりテラスでのマルシェの様子
ひばりテラスでのマルシェの様子
東久留米市のイオンモールでのハンドメイドマルシェも吉田さんの発案からはじまった
東久留米市のイオンモールでのハンドメイドマルシェも吉田さんの発案からはじまった

さらに吉田さんは、自分が住む東久留米市でもマルシェをやりたいと思うように。よく買い物に行くイオンモール東久留米店で、ふと思いついてインフォメーションでマルシェができないか問い合わせます。そこからとんとん拍子にマルシェ開催の運びとなり、2023年8月に「wakuwakuMarche in かぱおの住み家」が開催されました。

「東久留米ではマルシェが少ないと感じていて、ひばりテラスのマルシェの運営に取り組むうちに、やりたいと思うようになったんですよね。ちょうどイオンモールさん側でも、マルシェを開催したいと思ってはいたものの具体的な案がなく進んでいない状況だったようで、早く実現できました。絶対的集客があるショッピングモールで開催することによって、いろんな人に知ってもらえるきっかけとなっています。作家さん目的で来るお客様もいらっしゃいますし、作家さんにファンがついて、それがどんどん広がっていったら嬉しいですね」

お客様のリクエストに応じて作ることもある。オーダーも少しずつ増えてきた
お客様のリクエストに応じて作ることもある。オーダーも少しずつ増えてきた

こうして現在、2つのマルシェを運営している吉田さん。マルシェを運営するにあたり、ご自身も他のマルシェに出向いたそうです。

「秋にハンドメイドマルシェがたくさん開催されるので、2023年の秋は毎週マルシェに出るというのを自分に課しました。マルシェに遊びに行って、自分でも出店して。週末になるので、家族にも予定を調整してもらいましたね。でもマルシェを主催するからこそ、自分の目でいろんな作家さんを見ておきたいと思いました」

そこで広がった作家さんとの縁が、運営するマルシェにもつながっています。

買い物をきっかけに一坪のお店をオープン

昨年の夏より、吉田さんは新たに「Handmade My 町のミシン屋さん」として小さなお店を始めました。場所は、ひばりテラス118からも近い西東京市にある「HIBARIDO(ひばりどう)」。シェアキッチンやショップがあり、その中の1坪が吉田さんのお店です。

2つのマルシェの運営に制作と、既に多忙を極める中、なぜ新たにお店をオープンしたのでしょうか。

「子どもが4人いるんです。上は高校1年生から下は小学校1年生まで。そうなると、家で作業しようとすると、ママコールがすごいんですよね。オンとオフを切り替えるためにも、自宅と作業場は分けたいと思うようになりました」

自分のお店を開いたきっかけも、まさに吉田さんらしいものでした。

「HIBARIDOに買い物に来たら、そのお店の人に『そこが1つ空くみたいだから、吉田さんやってみたら?』と言われて。1坪スペースでちょうどいいし、ミシンに使う電源もある。作業場にもできるし、いいかも!と。2日後には内覧の予約をしていました」

作品は一つずつ完成させるのではなく、量産するため、カットの日、組み立てる日というように、まとめて制作するようにしているそう
作品は一つずつ完成させるのではなく、量産するため、カットの日、組み立てる日というように、まとめて制作するようにしているそう

お店の一角には、多くのハンドメイド作家が販売できるようにレンタルボックスを15箱置きました。

「ハンドメイド作家さんたちが販売できる場を提供したいという思いが以前からありました。作家さんからのニーズは高いのに、この近辺で委託販売できる所がないんです。私はひばりテラス118で今もレンタルボックスを利用していますが、新規の募集はしておらず、キャンセル待ちがいるほどです」

SNSを通して募集を行い、徐々に契約者さんも増えてきているそう。レンタルボックスを利用している方がマルシェに出たり、また、マルシェに出店した方がレンタルボックスを利用したり。相互にいい効果を生み出していると話します。

HIBARIDOのレンタルボックス。契約者さん達の商品がずらりと並ぶ。商品を美しく照らすこのライトは、電気工事ができる夫が付けてくれた
HIBARIDOのレンタルボックス。契約者さん達の商品がずらりと並ぶ。商品を美しく照らすこのライトは、電気工事ができる夫が付けてくれた

現在、HIBARIDOでは、がま口や、巾着、スマホケース、トートバッグなど多様な商品を10-20種類販売しています。中には、100円玉が数枚入るような小さなコインケースや、リバーシブルのカップホルダー、携帯用のボックスティッシュケースといったユニークな物も。

「100円ショップがライバルです(笑) デザイン性やかわいさ、便利さなどで差別化を図りたいと思っています。時代に合わせた物を作るようにしていますが、友達からアイディアをもらうこともあります。携帯用のボックスティッシュケースは、花粉症の友達から相談を受けてできた商品ですね」

平日は毎日、子どもを学校へ送り出してからHIBARIDOへと向かう。営業日や営業時間は変動するので、都度インスタグラムで知らせている
平日は毎日、子どもを学校へ送り出してからHIBARIDOへと向かう。営業日や営業時間は変動するので、都度インスタグラムで知らせている

今後については、このように語ります。

「一番下の子が4年生くらいになれば、だいぶ手も離れると思うんですよね。その頃に、できれば自分のお店を持ちたいな、という密やかな夢はあります。そのために、まずは紹介動画などでHIBARIDOをもっといろんな人に知ってもらって、多くのお客様に認めてもらわなくてはと思っています。“町のミシン屋さん”として地域に根付き、広がっていけたら良いですね。もちろんマルシェは3人でこれからも続けていきます!」

周りの人の一言で何かを始めてみたり、アイディアをもらったり。周囲の人とのコミュニケーションは、吉田さんにとって人との交流となっているだけではなく、行動する上での原動力・推進力ともなっているようです。(酒井)

プロフィール

吉田真弓

山梨県出身。高校で被服を学び、その後上京。長女が幼稚園の頃、ハンドメイドの制作を始める。現在、友人2人と共に「HIBARI de marché」と「wakuwakuMarche in かぱおの住み家」の2つのマルシェを主催する。2024年7月、「Handmade My 町のミシン屋さん」をオープン。
https://www.instagram.com/handmademy_15/

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