そばではたらく
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食う笑む和むを守る、一流店の今

八王子で27年もの年月を経て愛され続けている松阪牛専門店の眞一館 宇津木亭。著名人から近所の家族まで、誰に対しても変わることなく、徹底的に追求された食材で一流の料理を提供してきました。最高級の松阪牛にこだわりながら、目線は常に目の前のお客さんへと深く向けてきたこれまでを象徴するように、コロナ禍で真っ先に考えたことは、今まで大切に築いてきた地域の人々との関係をいかに繋げていくか、でした。社長の徳原保さんと、マネージャーの福元孝一さんにお話を伺います。

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声と手で作ってきた店

八王子駅から北へ車を走らせること15分、ひときわ小高い場所に眞一館 宇津木亭は姿を現します。創業者である徳原さんは吉祥寺出身。新宿歌舞伎町で45年前に創業し、松阪牛焼肉と本格韓国料理を提供する眞一館本店を一流店へと成長させると、かねてから望んでいた吉祥寺周辺での出店の可能性を探りはじめます。そのとき、ここ八王子の場所を紹介されました。

「店の窓から富士山が見えたとき、『ああ、ここにしよう』と思いました」

八王子で店を構えて27年。本質的においしく体に良い料理を食べてもらいたい、その思いを胸に店を経営してきました。

新宿で培った経験を全て活かし、「これだ」と行き着いた要素を全て注ぎ込みオープンしたのが、眞一館 宇津木亭です。

「新宿で店を始めたときからお客さんとはかなり近い距離感で、よく試行錯誤中の食材やメニューに感想や意見をもらっていました。当時はまだ松阪牛という軸が定まっていなくて、異なる産地から仕入れた牛肉へ寄せられる感想をデータとして蓄積していました。そんな時期を経て、八王子ではコンセプトや食材に確信を持てている状態でスタートができました」

一度食べた人は必ずまた戻ってくるという眞一館の松阪牛。冷凍は使わない正真正銘の生肉が特徴

今もお客さんと直にコミュニケーションをとることが多いという徳原さん。創業当時から食べる人の声と自らの信念を掛け合わせて、最高においしく、それでいてお客さんの体は店の料理が作るのだという意識のもと徹底的にクオリティにこだわる料理を提供してきました。

こだわりは、自らのルーツがある韓国の料理にも。韓国料理をスタートした当時は現地からシェフを呼び、作りたい料理さえわかれば翌日には韓国に飛んで国中を回って材料を調達するくらい、味と料理のクオリティを追い求めてきたといいます。今でも調味料や食材は全て本場のものを使用しています。

そんなこだわりと掛け合わせるのは、やっぱり日頃から聞かれる地域のお客さんの声。

「子どもに手軽に栄養価の高いものを食べさせたいけれど、なかなか野菜を食べてくれない、というお母さんの声を聞いて、新しいテイクアウトメニューを作りました」

福元さんが指差す先には、緑黄色野菜がふんだんに入った韓国の巻き寿司キンパがありました。

違いを楽しめるようキンパには柚子を効かせた和風バージョンも用意されている

学生時代から眞一館ではたらき現在はマネージャーを務める福元さん。新しいメニューの開発は現場スタッフ含め全員でアイデアを絞り出すそう

徳原さんが作ってきたのは、メニューや料理にとどまりません。

店内の半個室を支える立派な木の柱や、和室に置かれている椅子は、徳原さんの手作りというから驚きです。27年間一緒に店で過ごしてきた柱や椅子は、壊れることなく使うほどに味が出て、店内の雰囲気を作るのに欠かせない存在となっています。

「電気機器も、配線関係も、社長が自分で全部直しちゃうんですよ。故障があっても、業者さんを呼ぶ前に解決してしまうことが多々あります」と言う福元さんに、「いろんな仕事してきたからね」と笑う徳原さん。

眞一館 宇津木亭はまさに、お客さんの声と徳原さんの手で作り上げてきたのです。

徳原さん自らが手作りし取り付けた個室を区切る柱。年数を経るごとに味が出る

途切らせない、築いた地域との信頼

「八王子でのオープン当初から、近くにこういった店はないからと、たくさんの人にご来店いただきました。料理にはとことんこだわり、おいしさを追求しますが、近所のみなさんには、『おしゃれしてかなきゃ』なんて思わずに、気軽にくつろいでもらえる場所でありたいと思っています」

販促費はかけてこなかったという眞一館 宇津木亭は、一度その味を経験した人が家族を連れ、友人を連れ、口コミだけで地域を超えて知られるようになりました。

店の裏には栗の木がある緑地が広がり、秋には長靴を履いた親子連れが多く訪れるそう。八王子だからこそ味わえる自然やゆったりと広い客室、そしておいしさを突き詰めた料理が、たくさんの人を癒してきました。

そんな穏やかな日々にじわじわと迫ってきた新型コロナウイルスは、日常を一変させました。広々とした個室があるという特徴から団体での利用客も多かった眞一館 宇津木亭からは一時、にぎわい、食事を楽しむ声が聞こえなくなってしまいます。

外出自粛が続く中、これまでお店を支えてくれた地域やお客さんに何かしたい。そして、眞一館としての価値を一体となって作り出す存在である松阪牛の生産者を守りたい。その想いから、徳原さんはスタッフと話し合い、クラウドファンディングに取り組むことを決意します。

「まず思ったのは、こんな状況下でもこれまで築いてきた地域の人たちとの関係性を失いたくないということでした。クラウドファンディングは、売り上げやお金ということよりも、人と繋がり続けるために実施を決めたというところが大きいです」

大勢で食事をし、以前と全く同じようににぎわい楽しむことは今は難しいかもしれない。それでも、これまで長い時間をかけて作り上げてきた近隣の人たちとの関係、八王子という地域で得てきた支え、いつも来てくれていたお馴染みの常連さんとなんとか繋がりつづけたい。その想いで、価格をぎりぎりまで下げた食事券の販売を決めたのです。

「こういう状況だからこそ、自分たちにできることをしたい。今までずっと食べる人の健康や体を想い、本質にこだわる料理店をやってきましたから。今こそおいしい松阪牛で地域に、お客さんに元気になってもらいたいと思いました」

これからの、店を持つということ

クラウドファンディングのプロジェクトを作り込む中で、これまでの歩みを振り返る時間が増え、お客さんや店作りへの思いを更に強くしたと徳原さんは言います。

コロナ禍で移動や集まりが制限される今、はたらく場、食べる場、暮らす場、様々な場所のあり方や存在意義そのものが問われています。そんな中で、徳原さんも今まで以上に増して店のあり方を考えさせられているそうです。

「店をただの箱として捉えどう作ろうかと考えるのではなく、“まち”全体を考えることがますます重要になってくるのだと感じています」

圧倒的においしいものを作り出し、街で唯一の存在感を放つ眞一館 宇津木亭。街から、人から、長く強く愛されてきたのは、その味のためであることはもちろんのこと、常にお店が人の方を向き、声に耳を傾け、料理を提供するということの責任や意味を誰よりも真摯に受け止めてきたからなのかもしれません。
 

眞一館に至るまでには様々な職を経験してきたという徳原さん。最後に、なぜ飲食店の経営が究極的なしごとへと行きついたのかと尋ねると、少し困った顔を見せながら、柔らかい笑顔で言いました。


「やっぱり、人の役に立てるということが一番でしょうね」

 
八王子になくてはならない存在として。街と共に成熟してきた眞一館は、この先も地域の中で、人と向き合い、最高の「おいしい」でつながる時間を作っていきます。

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【リンジン X たましん連携企画】
多摩信用金庫はコロナ禍での地域の飲食店や事業者を応援しようと、テイクアウト・デリバリー店舗やクラウドファンディングのプロジェクト情報を集約したウェブサイト「エールの扉」を開設しました。今回、エールの扉とリンジンがタッグを組み、そうした情報の裏にある事業者の想いや、コロナを乗り越える取り組みを記事でお伝えしています。

「エールの扉」特設サイト
https://www.tamashin.jp/yell/

プロフィール

徳原保

新宿歌舞伎町に眞一館本店を創業、その後も複数の店舗を展開しながら27年前に八王子で眞一館 宇津木亭を開店。冷凍肉を一切使用しない生の松阪牛の提供を特徴に、一流店として長年愛される店づくりを行ってきた。

福元孝一

鹿児島県出身。大学への入学をきっかけに上京し、眞一館 宇津木亭でアルバイトをはじめる。大学卒業後に社員として入社し、現在はマネージャーとして活躍。