そばではたらく
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手工業デザインと流通をつくる

食器や包丁、ピーラー、栓抜き、鍋敷き。私たちの暮らしを支える、さまざまな生活道具があります。「いいものを長く使いたい」と願う方は多いのではないでしょうか。吉田守孝さんは、日本を代表するプロダクトデザイナーである故・柳宗理氏のもとで、20年以上に渡ってともにはたらき、2011年に独立してからは小金井に拠点を持ち活動してきました。道具の作り手と使い手に向き合い、長く愛されるデザインを生み出す吉田さん。どんなおしごとをしているのでしょうか?

デザインにとどまらず、流通も手掛けるわけ

ヨシタ手工業デザイン室は、武蔵小金井駅から徒歩5分ほどのところにあります。
 
「市内に自宅がありまして、以前はそちらに作業場を設けていたんです。ただ、うちはデザインだけでなくて流通もやっていますから、常に商品の在庫が手元にあるんですね。次第にリビングから在庫が消えることがなくなってきて、いよいよ手狭だよね、と。そんなときに今の場所にご縁をいただいたので移ってきました」
 
こう話すのはデザイナーの吉田守孝さん。作業場の隣にはショップを併設し、吉田さんがデザインした商品が並んでいます。
 
「見本市と違い小売店さんには、すべての商品が並ぶわけではないですから、『どこに行ったら全部見られますか』とよく聞かれる状況になっていました。ここは通りに面しているので、作業場だけでなくショップスペースも作ろうかと」

道に面して左半分を作業場、右半分をショップとして使っている。前を通りかかった方が訪れることも多いのだとか

デザイナーさんの主なしごとは、もちろん“デザイン”。吉田さんのように、デザインにとどまらず流通まで行う方は珍しいそうです。
 
「こうなったのは、基本的には“なりゆき”です。デザインのしごとは一般的に、クライアントからオーダーを受けて、デザインを提供することが多いと思います。でも、僕は長く勤めた柳宗理先生のところで、オーダーを受けるための営業活動を経験したことがなかった。柳先生は営業しなくても依頼がありましたからね」
 
そこで、独立したときに考えたそうです。
 
「自分がデザインしたセルフプロダクトがあれば、営業ツールになるのではないかと。作ったら売らないといけませんから、自然と流通までやるようになりました。そして、売ればメンテナンスまで見ることが必要だと思うようになって、今の形になっています」

柳工業デザイン研究会の出身者は40人ほどいるという。吉田さんは、柳宗理氏に師事した最後の世代

吉田さんがデザインし、各地の熟練した作り手さんによって形になる生活道具。長く大切に使い続けたいからこそ、「使ってみたいけれど、どうやってメンテナンスをすればよいかわからない……」とためらう気持ちもあります。
 
「デパートの催事などで売り場に立つとわかるんですけど、実際に『どう使ったらいいかわからない』『手入れが心配』と言う方はすごく多いです」と吉田さんは話します。
 
「僕自身もわからないことが多いですから、どの程度までなら直せるのか、作り手に聞いて学んでは、お客さんに伝えています。作り手も『そんなに使ってもらったならうれしい』と言って応じてくれて。店を作ったことで、お客さんと直接話せるので、メンテナンスまでやりやすくなりました」

吉田さんがデザインした商品が並ぶショップスペース。中ほどにあるのはいちょうの木の一枚板を使用したまな板「てがかり」。長く使えるよう、製造元では削り直しに対応している

故・柳宗理氏のもとではたらいて

吉田さんは石川県小松市のご出身。伝統工芸品である九谷焼の上絵付けを家業とする家に生まれました。
 
「自宅の向かいに仕事場があって、職人さんが何人か来て作業をしていました。母屋では商品を問屋に発送する作業なんかもしていてね」
 
高校時代、エンジニアリングに興味を持ち、理系に進んだ吉田さん。しかし数学が苦手で、「数学がいらないものづくりだから」と聞いたのをきっかけに金沢美術工芸大学で工業デザインを学びます。
 
「柳先生は金沢美術工芸大学の創立に深く関わった方で、僕が在学した頃にも、年1〜2回は特別講義がありました。基本的には柳先生がそのとき話したいことをしゃべって帰っていくんですけど」

試作品の模型。セルフプロダクトだけでなく、クライアントからの依頼でデザインした品も数多くある

吉田さんは大学4年の夏休みに柳氏の事務所「柳工業デザイン研究会」でインターンを経験。そして就職することになりました。そのとき、柳氏は72歳。
 
「僕とはちょうど50歳差です。企業勤めだったらリタイアしている年齢で、それも含めて面白かったですね。途中で先輩が独立し、事務所は同期と僕と柳先生の3人に。柳先生は手取り足取りは教えてくれないですから、なんでも実地で試行錯誤でしたよ」
 
柳氏との思い出を聞けば、「叱られたことが一番記憶に残っている」と吉田さん。「いいときはいいと言うけど、たいがいダメだった」そうです。
 
「“いいもの”とは、あくまで、“柳先生が考えるいいもの”。ですが、柳先生のデザインの商品寿命が長いのは、やはり、いろんな人がいいと思う普遍的な良さがあるからです。まずは道具としての使いやすさ。そして見ていて飽きない美しさ。2つのバランスが高いレベルで取られています。柳先生とものを作るなかで、その最終的なジャッジを間近で見続けられたことが最大の学びでした」

ステンレスラウンドバーシリーズは、初めから金型を作って量産するのではなく、人の手による加工で少量の生産からスタート。現在は一部が量産に移行している

作り手とも使い手とも関係性を築く

こうしてお話を伺うと、吉田さんは、柳宗理氏のデザインに対する姿勢を、いわば五感で受け取り、自らに染み込ませてきたと言えるのかもしれません。今、吉田さんのデザインはどのようにして生まれるのでしょうか。
 
「“こんなデザインを作りたい”といったイメージを先に持つことはあまりないですね。どんな素材があるのか、どんな加工ができるのか。この素材とこの加工で、こういう商品ができるんじゃないか。デザインのリアリティはそこから生まれてきます」
 
例えば、「てがかり」と名付けられた、いちょうの木のまな板があります。作るきっかけとなったのは、ステンレスラウンドバーシリーズの包丁を販売しているとき「この包丁に一番合うまな板は?」と尋ねられたことでした。吉田さんは、まな板を作る作り手さんに相談。水はけがよく乾きが早いいちょうの木の素材を活かし、作り手さんとともにまな板を作り上げていきました。
 
「作り手の技術や素材の良さを引き出していくのが、デザインの役割ですから」

販売担当の横須賀雪枝さん。民藝のお店や日本民藝館に勤めたご経験があり、ヨシタ手工業デザイン室の流通を一手に担っている

「素材や作り手の良さが活きるように工夫する。それが本来のものづくりだと思います。今は『こういうのが売れるから作りましょう』という考え方のほうが多いのかもしれませんが」
 
作り手や素材ととことん向き合い、よく知り、リスペクトする。そんな姿勢が吉田さんの言葉の端々から感じられます。同時に、吉田さんがもう一つ大事にしているのが、使い手との関係性です。

「これも柳先生のもとで学んだことですけど、作り手だけでなく使い手とも関係性ができていないと、デザインが成り立たないと思っています。商品を使って『いいね』と思う方がいなければ、デザインは存在し続けないですから」
 
「今は売れ筋もすぐ変わるし、安価な量産品を選ぶ人もいれば作家物に拘る人もいる。そんななかで、産地や作り手の特長をどう発信していくのか。売り手にとってすごく難しいことです。もうちょっと作り手自身が自分たちで発信していくことが期待されているのかなと思います」

岐阜県の陶磁器メーカーからの依頼でデザインした食器のシリーズ、「TRIP WARE」。岐阜の美濃焼の産地では陶磁器のリサイクルに長く取り組んでいて、TRIP WAREはリサイクル陶磁素材を広めることを目指して生み出された。見本市への出展やパンフレットの制作など、伝えていく取り組みもサポート

デザインで終わらず、長く一緒に

「工業製品として量産をするものづくりと、少量を手しごとで作る領域にまたがって、僕は今しごとをしている」と吉田さん。
 
「一般的に工業デザイナーって、もう少し工業製品をやることが多いと思うんですけど、柳先生のところにいたこともあって、僕は今のような領域が得意というか、他はできない(笑)」
 
今後、インテリア系のプロダクトにも取り組んでいきたいそうで、今年6月に出展した「インテリアライフスタイル2022」では、ステンレスのコートハンガーや引き戸の取手など、建築金物の新作をお披露目しました。
 
「すでにあるアトリエスツールも含めて、空間づくりにつながるものを出していけたらと思っています。欲を言えば、もっと大きいショールームを作って、空間全体をお見せできたらいいですね」
 
多摩地域で活動する人ともさまざまなつながりが。「多摩地域にはデザイナーが多いですし、西の方に行くと作り手も多いですね」と話します。例えば、八王子で家具のデザインや企画を行う「フルスイング」とは共同で家具を製作。国立のデザイン事務所「株式会社と」には、リーフレットなどのグラフィックデザインの相談をすることが多いそう。また、ショップスペースを持った今は、小金井周辺のお店同士でコラボ企画を行うなど、新しいつながりも生まれています。

使い手側も、産地や使い手のことを知りたい気持ちを持っている。「地域単位の小さいところにスポットが当たる時代という感じがしますよね。『知られていないところを発掘したい』とか『こだわって買いたい』といった消費行動が生まれていると思います」

今、吉田さんのもとには、「流通の相談にも乗ってほしい」といった作り手からの依頼が増えているそうです。
 
「たまたま自分で流通までやっていたせいか、商品企画だけでなく、事業企画や販売も含めて、クライアントと長く一緒に取り組めるようになってきました。面白いですね。デザインして終わりではなく、どうやって軌道に乗せていくかまでできるのは」
 
素材や作り手、使い手とひたすら向き合い、“いいもの”を生み出してきた吉田さん。吉田さんの真に相手を知ろうとする姿勢、本質に触れようとする姿勢を思えば、作り手からの相談が増えているのも納得です。作り手と使い手。工業と工芸。デザインと流通。吉田さんの姿は、別モノのような2つの間を行き来し、その結び目から新しいものを生み出しているかのように思えます。普遍的な“いいもの”を作るデザイナーのしごとを垣間見ました。(近藤)

プロフィール

吉田守孝

1965年、石川県小松市生まれ。金沢美術工芸大学工業デザイン専攻を卒業後、(財)柳工業デザイン研究会に入所。故・柳宗理氏のもとに学ぶ。2011年に独立し、ヨシタ手工業デザイン室を設立。素材やものづくりの技術を活かし、自分たち自身の手で施策しながら考えることを大切に、生活道具のデザインに取り組む。モノ作りから流通までをデザイン活動ととらえて販売にも取り組んでいる。
https://yoshitadesign.com/