日本型郊外ワークスタイルの予感

2017.05.15
日本型郊外ワークスタイルの予感

郊外での住まい、暮らし、はたらき方を考える企画展小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ(3月16~28日、新宿・リビングデザインセンターOZONEで開催)との連動企画として開催されたシンポジウム郊外の未来を考える 住みたい・働きたい街は自分で作ろう!。

“暮らしの場としての郊外”について、パネリストたちのさまざまな意見が交わされたあと、話題は“はたらく場としての郊外”へと進んでいきます。「都心と郊外では“はたらく”の定義が異なり、郊外ではたらいている人は、都心で一度はたらいた経験をリセットし、再構成して今に至るのではないか」という法政大学教授の保井先生のコメントに、納得のようすを見せるパネリストたち。郊外での職住近接を実現するには、どのような課題があるのでしょうか。

“郊外ならゆるい”わけじゃない

ー郊外の企業の経営者と話をすると、『新卒の社員を獲りたい』という方は多いんですよ。でもやっぱり、一度は丸の内や新宿、銀座などの都心で働いて、はじめて郊外でもはたらけるようになる気がするんです。都市ではたらくというのは、人間の性といってもいいんじゃないかと。

小池「そうですね。私も大学を卒業してからは、渋谷で勤めていましたし、今のしごとの前は新宿ではたらいていました」

小池さんは自宅をリフォームするにあたって、以前勤めていた会社の建築士の方に、相羽建設を紹介してもらったのだとか。これも、都心ではたらいた経験が今につながっている例といえます。

相羽建設の拠点つむじで毎月開催しているつむじ市。
相羽建設の拠点つむじで毎月開催しているつむじ市。

新たな郊外の形ができる予感

ーまた郊外には、お子さんが生まれたことをきっかけに移り住んで来る人もたくさんいます。特に主婦の方は、都心ではたらいていた頃に相当なキャリアを積んで、ハイスペックな人材が多いように見受けられます。経営者の観点からいうと、都心よりも賃金を抑えながらもハイスペック人材を獲得できる環境にもあると思うのですが。

小泉「そうですね。“郊外らしさ”というと、特に主婦の方は“同級生”など、何かしらの関係性を持って人がつながる面がありますね。全く知らない人ではなくて、根っこの部分がつながっている人の関係が、郊外にはある。それは、はたらくうえでの信頼や安心にも関係してくるんじゃないかと」

“郊外らしさ”についてご自身の実感を交えながら話す小泉さん。
“郊外らしさ”についてご自身の実感を交えながら話す小泉さん。

保井「女性だけでなくて、高齢者の存在にも注目です。定年退職もそうですし、早期退職などで次の人生を模索するタイミングが速まっていて、チャレンジの機会が増えてきています」

ー保井先生、海外の場合は都市から郊外へという人の流れは見られるんですか?

保井「アメリカのポートランドのように、積極的に暮らしをよくしようと移住する人が集まる例もありますけどね。ですが、都心と郊外で分けるというより、自分のライフスタイルに合う場所を求めた結果なんだと思います。ある人は都心を選ぶだろうし、ある人はエネルギッシュな人が集う郊外のある地域に行くのだろうし。5年から10年くらい前まで、日本にはそういう場所がないね、アーティストってどこに住んでいるんだろうねという話をしていましたが、最近少しずつ集う人が見えてくる動きがあるような気がしています。特に、郊外での暮らしを満喫する先駆者たちが、登場しつつあると。そこに高齢者の活躍も含めると、世界を見渡してもこれまでにはない郊外のスタイルができるような予感がしますね」

それぞれの立場から郊外の可能性について話したパネリストたち(左から、小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)
それぞれの立場から郊外の可能性について話したパネリストたち(左から、小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)
連載一覧

郊外はどこへ向かう
郊外のすゝめシンポジウム

#1 都会と郊外はどちらが住みやすい

#2 暮らしの選択肢を広げる“余白”

#3 日本型郊外ワークスタイルの予感

#4 住みたいまちは自分たちでつくれ

プロフィール

小泉誠

家具デザイナー。1960年東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に従事後、1990年Koizumi Studio設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年からデザインを伝える場としてこいずみ道具店を開店し、デザイン活動を再開、デザインの素出版。2005年ギャラリー間展覧会、と/to出版。2007年小泉誠展匣&函。2013年毎日デザイン賞。2015年わざわ座発起。2016年地味のあるデザイン出版。2016年日本クラフト展対象。
http://www.koizumi-studio.jp/

保井美樹

法政大学現代福祉学部教授。1969年福岡生まれ。NY大都市計画博士、工学博士(東京大学)。米Institute of Public Administration、世界銀行、東京市政調査会、東京大学等を経て、2004年より法政大学。エリアマネジメント、官民連携まちづくりを専門とし、研究の傍ら各地で実践の支援を行う。近著に最新エリアマネジメント(共著、学芸出版社、2015)。
http://yasuilab.ws.hosei.ac.jp/wp/?page_id=12

小池ともこ

そばの実カフェsoraオーナー。1964年東京生まれ、大学卒業後、会社勤務を経て結婚を機にマクロビオティックの食事を実践。マクロビ系の飲食店を経て、2015年実家をリフォームしたそばの実カフェ soraをオープン。蕎麦粉を使った菓子やパンを販売し、ワークショップそば粉の実験室を主宰。
http://ameblo.jp/sobanomicafe-sora/

相羽健太郎

相羽建設株式会社代表取締役。1973年東京生まれ。神奈川大学卒。一条工務店を経て1998年に相羽建設入社。建築家の故・永田昌民氏や伊礼智氏、家具デザイナーの小泉誠氏との協働をはじめ、建築業界や行政、地域との価値観に基づくつながりの中で“創発”が生まれるプロジェクトを多数進めている。東村山空き家対策協議委員。一般社団法人わざわ座理事。
http://aibaeco.co.jp/

小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ

http://kougainosusume.jp/

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