事業で探る教育者への夢

2018.03.22
事業で探る教育者への夢

仲間と共にひとときの青春を駆け抜けたい。自分の長所や技能をさらに高めたい。就職活動に役立つ活動をしたい…。大学のサークルに所属する理由はひとそれぞれです。みなさんはどのような学生時代を過ごしましたでしょうか? 今回の主役は、リンジン初となる現役の大学院生の濱孝寛さん。彼が現在進行形で大きな関わりを持つサークルで行っていることは、未来の自分を見据えた、起業家の視点を持った活動でした。

教育学部での違和感

現在、東京学芸大学大学院で教育学を研究しながら所属している大学内公認サークルのEducation club PoPoで精力的に活動をしている濱さん。子供が好き、そして教えることをしごとにしていきたいという想いから東京学芸大学へと進学。教育者に向けて着実に歩みを進めるキャンパスでの日々を重ねていくと、早々にとある疑問を抱き始めたそうです。

それは、“教育者を目指す人の考えが偏っている”ということ。「子供大好き!」、「学生生活って楽しかったよね!」という思想が根底にあるコミュニケーションに妙な違和感を覚えたそう。

「教育者になろうとしている人って、その多くが優等生だったんですよね。総じて生徒会役員や学級委員長など経験している人も多くて。学校というとても狭い世界で自己満足している集団で、ある種オカルトじみているんですよ。でも子供に何かを教える立場の人間が、こんな単一的な考えの大人ばかりでいいのだろうかって」

「もっと多様性を理解できる教育者でありたい」。そんな想いを原動力に、濱さんは友人と二人でTERACOYAという屋号を掲げて、小中高生に勉強を教える活動をスタートさせました。

現在の活動のフィールドである地域のシェア教室CO-舎で出迎えてくれた濱さん。そんな彼も、以前は生徒会役員に所属していた経験があるそう。
現在の活動のフィールドである地域のシェア教室CO-舎で出迎えてくれた濱さん。そんな彼も、以前は生徒会役員に所属していた経験があるそう。

TERACOYAでの手応えとPoPoの本格始動

「大学在学中にずっとアルバイトで塾講師していたのですが、それとは違う、成績向上が主目的ではない子供たちにとっての居場所づくりをしたかったんです。もちろん自分にとっての居場所をつくりたかったという想いもありますが(笑)」

“子供達にとっての学校と家庭に次ぐサードプレイスをつくる”ことをテーマに掲げ産声をあげたTERACOYAは、スタート時に2、3人だった参加者もその数倍にまで成長。手応えをつかんだ濱さんはこの活動を学芸大学内にも広めていきたいと考えるようになりました。

その当時、大学内ではEducation club PoPoの代表でもあった濱さんは「個人よりもサークルの方が宣伝がしやすい」という理由も相まって、PoPoのひとつのプロジェクトとしてTERACOYAの活動を学内で始動させることに。学生同士が関われる場を積極的につくることで、一人、また一人とメンバーが加わった結果、10名を超えるメンバーを抱えるサークルへと成長を遂げていきました。人数が増える過程では、活動の本質がブレないように気を配ることも忘れなかったそうです。

「子供達にとっての学びの場をつくることがPoPoの目的ではあるのですが、ともすると学校と似た環境をつくってしまう危険性があります。そうならないように気をつけていました。家庭環境が多様化することで子供の性質も多様化しているのですが、家庭以外の子供の居場所って学校しかなくて。だから、僕らがつくる学びの場は、学校生活では交流の機会のない子供同士がコミュニケーションをとれる場であってほしいと思っています」

PoPoの活動のフィールドの多くは、学校外の民間企業が運営する地域のシェアスペース。学校環境との差別化を図る理由もそこにあるのだそうです。

子供、地域、安心、居場所など、PoPoの活動の指標としていくつかあるキーワード。その中でも、“安心”を掲げているのはPoPoならではと話します。
子供、地域、安心、居場所など、PoPoの活動の指標としていくつかあるキーワード。その中でも、“安心”を掲げているのはPoPoならではと話します。

事業を営むという意識で生まれた学び舎

大学院への進学を機にPoPoの代表を後輩へと譲り、濱さんは新たな一歩を踏み出します。2016年、小金井市にできた地域のシェア教室との出会いがきっかけで学び舎というプロジェクトをスタート。TERACOYAの進化系として、教員を目指す学芸大学の学生たちによる、子ども達への学習サポートの場を運営しています。

大学内の活動でありながらも、学内には留まらずに外へもしっかりと視線が向けられた濱さんが手がける活動。それほどまでに学外を意識する理由とは? そのアンサーは、彼が未来に見据えた起業家としてのビジョンが導き出してくれました。

「そう遠くない未来に、学び舎で培ったノウハウを活かした事業をしていきたいんです。そのためにも、有志を募ったボランティア活動にはしたくないと思って。だから学び舎は子供達から参加費を一人1000円しっかりいただいています。もちろん利益を優先しているわけではなく、事業としての経済感覚を身に着けると同時に、しごととしての責任も持ちたくて」

少しずつプールした資金は、シェアスペースの場所代として捻出したり、参加してくれる学生メンバーへの労いを込めて定期的な食事会などを開催する経費にあてていると話す濱さん。その精神には、人を巻き込み、そして引っ張っていくリーダーシップが刻まれています。

濱さんの言葉からは、“起業したいという野心”ではなく、あくまでも“教育者としてかくありたいという情熱”が伝わってきます。
濱さんの言葉からは、“起業したいという野心”ではなく、あくまでも“教育者としてかくありたいという情熱”が伝わってきます。

地域に根付き、対話のできる教育者へ

濱さんがこうありたいと願う姿勢のひとつとしてあるのが“地域に根付くこと”。そのアプローチとして、学び舎での活動は大きな基礎となっています。

「PoPo、そして学び舎という場所を持つことで、様々なところからお声をかけてもらえるようになりました。例えば、青年会議所や社会福祉協議会。普通に大学生活を過ごしているだけではこのような関わりは持てなかったと思います」

「学生とのコネクションがほしい」、「じゃあ濱に相談すればいいんじゃない?」。地域の中でそんな会話が生まれることを願い、これからも誠実な活動を続けていきたいと話します。

そして、彼が現在抱く教育学に対する考えは“対話のある多様性”。“変化し続けること”を大切にしながら、これからの将来のことを話します。

「まずは、何よりも学校の教員になることです。自分のキャリアのひとつとして無くてはならないものだと思っています。そのために勉強してきたので。けれど、その延長線上にある活動は、学校が唯一の選択肢でなくてもいいとも思っているんです。多様性を受け入れながらも、お互いに理解し合うこと・対話の大切さを知っている教育者になりたいですね」

それが実現可能なフィールドはどこなのか。それをずっと探していきたいと言う濱さん。様々な人とのつながりや体験・考え方を吸収して、ひるがえってじゃあ自分は? そんな自問自答を繰り返しながら、一歩ずつ教育者への道を進む濱さんの眼差しは、未来の自分をしっかりと捉えていました。(加藤)

濱さんがどんな教育者になっていくのか、そう遠くない未来が楽しみです。
濱さんがどんな教育者になっていくのか、そう遠くない未来が楽しみです。

プロフィール

濱孝寛

東京都小平市在住。東京学芸大学大学院、教育学研究科所属。大学2年次にEducation club PoPoに参加すると同時に、自身でTERACOTYAという学びの場をつくる。その後、PoPoの代表(現在は退任)として精力的に活動を行い、2016年からは教員を目指す学生の活動の場である学び舎を運営している。
Education club PoPo
https://twitter.com/education_popo

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