JR中央線・三鷹駅から徒歩約20分。武蔵野市一番街商店街の一角に拠点を構え、夫婦で住宅や店舗の設計を手がける、studio83(はちみち)の辰巳知子さんと辰巳雄一さん。二人の自宅兼事務所は、商店街にあった小さな空きビルを自ら設計・リノベーションしたものです。「83(はちさん)ビルティング」と名付けられたそのビルは、地下と屋上付の4階建で、ギャラリー、キッチン付き店舗、事務所兼シェアオフィス、そして自宅として活用されています。ユニークな家のつくり方・つかい方を実践した二人のビルを訪ねました。
狭小地に建つ、長細いペンシルビル。もともとはマンションに住み、シェアオフィスを借りてしごとをしていた辰巳夫妻は、なぜこのビルを住みながらはたらく自分たちの拠点にしたのでしょうか。
雄一さん
「普段の設計のしごとではお客様のオーダーをもとに家をつくりますが、いつか “こんな家でこんな住まい方が面白い”と自分たちで表現したい気持ちがあって。それが叶う店舗兼住宅を探していたんです」
そして、敷地や価格・立地などの条件を変えながら物件を探す中で、たまたま「自分たちの考え方と形がリンク」するこのビルが見つかったと言います。
知子さん
「私たちは自宅兼事務所としてだけでなく、街の人との接点になるような“+αの場所”をつくりたいと考えていて。小さなビルを見た瞬間、路面の1階は“+αの場所”として人が集まる飲食店、2階はオフィス、3階からは自宅にしようって、パッと想像がついたんですよね」
雄一さん
「街の人とざっくばらんに話せるきっかけや仕組みをつくるのは、面白いなと思いました。設計のしごとをしていると集中して世界にこもってしまうので、自分たちも開かれた場がほしかったのかもしれない」
形が物件の決め手になったそうですが、立地も特徴的です。駅から離れているけれど、単なる住宅街じゃなくて、商店街があって公共施設や大型施設、個人商店も多い。そんな場所としてのポテンシャルを、今住みながら感じていると言います。
設計を専門にする二人は、どんなイメージでこのビルをリノベーションされたのでしょう。家づくりへの思い入れも大きく、現在の設計にいたるまでは試行錯誤したそうです。
知子さん
「最初は複雑に考えていましたが、2枚の大きな引戸で仕切り、それを動かして空間を変化させるというアイデアが思い浮かび、“こうか!”と腑に落ちたんです。全体の設計は、シンプルに同じ構成にする。そして、各階で仕上材料や用途を変える。人が集まる1階を街の接点として、誰もが立ち寄ることのできる場所にし、上に行くにつれてプライベート性が上がるように配置を決めました」
また、各フロアは約8坪で一般的な1ルームほどの広さしかないため、狭いスペースをどう活かすかもポイントに。廊下や垂直な壁・設備は最低限にしたり、視点が抜けるような配置にしたり、開放感ある空間づくりを意識したようです。
雄一さん
「あと、根本的な考え方として、自分たちが心地よい場所にしようと。みんなにとっていい空間にしていくと、誰のものでもないよくある空間になってしまう。だから、とにかく自分たちがすごくいいと思う空間をつくって、それを解放していったほうがいいなと思ったんです」
実際にどう使われているのか、地下から屋上まで案内していただきました。83ビルディングの中身を見てみましょう。
地下1階
地下1階は、もともと使われていなかった地下空間を活かして、ギャラリーのような仕様に。様々な人が行き来するパブリックゾーンで、例えば、クリエイターがアート作品を展示したり、土日にワークショップなどのイベントをしたり、街に発信する場、楽しむ場として活用されます。
1階
このビルの玄関口である1階は、誰もが気軽に立ち寄れる場になるよう、キッチン付き店舗スペースに。もともと2階にあった本格的なキッチン設備を活かし、カウンターやテーブルが設けられています。この先はコーヒーやランチなどのお店とし、毎日自然と人がにぎわう場所になりそうです。
2階
2階は、studio83事務所兼シェアオフィス。最初は二人の事務所のみとして考えていたそうですが、異分野ではたらく人同士の出会いや交流が生まれるよう、シェアオフィスにしたとか。周りの壁を囲むようにデスクが設置され、真ん中には作業したり立ち話をしたりできるように、ロッカー付きの大きな作業台が設けられています。
3階
3階は、辰巳夫妻の自宅リビング。リビングの奥には夫婦用のシンプルなキッチンがあります。プライベートゾーンとパブリックゾーンの交差地点でもあり、夫妻のキッチン・リビングとして使われたりレンタルスペースとして使われたりと、時間によって使い方が変化します。
4階
4階は寝室で、完全なプライベートゾーンです。段差をつくった小上がりのある洋室で、床下には収納スペースも。このビル全体がstudio83としてのショールーム機能を兼ねているため、普段からこうしたプライベートゾーンも見せていただけるとか。サンプルとして仕上がりをイメージしやすいよう、天井やフロアごとに壁の色やスイッチプレートなどもすべて違うそうです。
屋上
屋上の塔屋(屋上に突き出した屋根が付いた建物)には、バスルームがあります。ドアを開けるとすぐルーフバルコニーにつながるバスルームが、二人にとって一番のお気に入り空間のよう。バルコニーからは、街の景色を広く見渡せます。
今年の1月には、83ビルディングのオープンハウスが行われ、はじめて一般に公開されました。今、このビルで住みながらはたらく中で、変化や手応えをどう感じているのでしょうか。
知子さん
「先日のオープンハウスでは、近所の方やこのビルが気になっていた方、口コミで知った方など、総勢90人くらいの方が来てくれました。“ふらっとコーヒーを飲めたりランチができたりする場所があるといいね”と言う方も多く、街に求められていると感じましたね」
雄一さん
「多くの人と出会ってフラットに話せる。それはこんな場をつくったから、起きていることです。イベントでみんなでコーヒーを飲んだり漆喰を塗ったりしながら、“街に開くってこういうことなんだ!”と肌で感じますし、僕たち自身も楽しくて。それに、実際にここに来て“こんな住み方があるのか”と驚いている人の姿を見ると、自分たちが考える住まいを形にした意味があるなと」
そして、今後の展望を二人はこう語ってくれました。
知子さん
「これから1階のキッチン付き店舗やシェアオフィスの運営を本格的にスタートします。なんか話したいなという時にここに来れば誰かと話せる。街のハブといったら大袈裟かもしれませんが、そんな場所になれたら理想的だなと思っています」
雄一さん
「昔はおじいちゃんおばあちゃんと暮らしていたり、地域のつながりがある生活が普通だったのが、今は小さくなっていますよね。僕は、このビルをきっかけに、昔あった地域や世代を超えたつながりをもう一度違う形でつくれないかなと思ってるんです。まだどうなるかわかりませんが、これから実験していきたいですね」
二人が街の人と出会い、その声に耳を傾けながら少しずつ進化していく、83ビルディング。街の景色にどう溶け込んでいくのか、二人のしごとにどう作用していくのか、これからがとても楽しみです。
立教大学コミュニティ福祉学部卒業後、大手不動産会社に就職。その後、早稲田大学芸術学校建築設計科に入学・卒業後、添田建築アトリエで、個人住宅、集合住宅、店舗内装などの設計監理を担当。2015年にstudio83を設立。主に住宅や店舗、家具の設計を担当。一級建築士。
筑波大学体育専門学群卒業後、早稲田大学芸術学校建築設計科に入学し、構造設計を専攻。構造設計事務所、早稲田大学芸術学校教務補助を経て、studio83を設立。主に構造設計を担当。
studio83ホームページ
http://s83.info
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