お店や場づくりにおいて大切なのは、どうすれば場に人が集まり、その場をどう使うのか考えること。訪れた人にどのような行動をしてほしいのか、具体的なイメージをふくらませておくことが大事だと建築家の山道さんは言います。トークイベント後編では引き続き実際の施工事例を交えながら、これからの場づくりのアイデアをお伺いしていきます。
北池「山道さんのお話を聞いていると、ソフト面をすごく意識してハードの設計をされているように感じます」
山道「そうですね。以前、自分が設計したシェアオフィスで運営にも携わっていました。そこで日々の生活を過ごしてみると、『ここは掃除がしづらいな』『この机は頻繁に動かさないといけないのに重いな』『机が円形だったらもっと意見交換がしやすのに』などなど、図面に向き合っているだけでは見えてこないリアルな使い勝手を実感したんです。そのしごとを2年くらい続けてきた中で、空間とはどうあるべきかという問いに向き合い続けました。建築家が自分の手がけた物件を体感する機会って、実はあまりないですから、いい経験になりました」
北池「私たちが建築家にお店づくりを依頼をするとき、どんなことに気をつけたらいいでしょうか」
山道「遠慮なく、全部言うことですかね。図面にはデザインした建築家の愛が溢れていますが、それをあえてぶっ壊していくべきだと思います(笑)。出来上がってからもっとこうしたかった…と思われるよりは、先に言ってもらう方が絶対いいです」
北池「物件を選ぶときに気をつけることはありますか」
山道「物件を見に行くと、不動産屋さんからはいいことしか言わない笑。マイナス部分になるものがないかをしっかり観察してください。障壁があっても、よく観察することで、お店づくりに反映できることもあります。諦めずにその障壁をどうプラスに変えるのか、観察をしつづけるといいと思いますよ」
北池「これまで、建築家として色々な事例を元に空間づくりについてお聞きしてきましたが、時代の変化に伴って、はたらき方も変化してきていますよね。山道さんは、これからのはたらき方についてどう思われますか?」
山道「テクノロジーの進化はすごいですよね。例えば、従来のオフィスに施されていたようなケーブルやスピーカーなども、工事段階で全てをフルスペックでつくりつける必要がなくなってきているように感じます。これからの時代は、身軽な空間設計である方が、変化に強いように思います。たとえば、私たちが手がけた朝日新聞社メディアラボには、寝ながらプログラミングできる場所、会議室としても使用できる茶室、客席にもなる階段状の本棚など、可動的な要素をたくさん取り入れました。すると、社員のはたらき方も変わってきたようです。それぞれが自由なはたらき方をしながらも、業績は高水準を維持しているとお聞きします。社会が変わっていくにつれて、人々に求められる空間も変化し、そして個人のはたらき方もまた、過渡期を迎えているのかもしれませんね」
北池「テクノロジーの進化とともに、はたらき方も身軽になってきているんでしょうね。これから場を持とうという方は、そういったはたらき方を意識し、過度に作りすぎない身軽な場づくりを心がけることも大事なのかもしれません。今日はありがとうございました」
時代と共にシフトする空間設計
#2 変化に強い身軽な空間づくり
1986年東京都生まれ。2011年東京工業大学大学院修士課程修了。2011年~同大学大学院博士課程に在籍。2012年にはELEMENTAL(チリ)に勤務。2012~13年Tsukurubaチーフアーキテクトを経て、2013年ツバメアーキテクツ設立。現在、東京理科大学、関東学院大非常勤講師。代表作に「阿蘇草原情報館」「荻窪家族プロジェクト」「朝日新聞社メディアラボ」等。編著に「シェア空間の設計手法」
株式会社ツバメアーキテクツ
http://tbma.jp