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サードプレイスのウラ側を考える

家でも仕事場でもない、第3の場所。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグの定義によると、サードプレイスとは、「家庭や職場での役割から解放され、一個人としてくつろげる場」。コロナ禍の中、改めてその価値や必要性を感じている人も多いのではないでしょうか。

今年で5年目となるデザインセッション多摩DeST(主催 明星大学デザイン学部デザイン学科)。多摩エリアにおいて、デザインの力を活かしたプロジェクトを増やしていくためのプラットフォームです。
今回のテーマはサードプレイス。オンラインで開催されたトークセッションには、場の運営を行う4名が集まりました。話題は「サードプレイスの現状とこれからの可能性について」。クルミドコーヒー、胡桃堂喫茶店店主の影山知明さんによるファシリテーションのもと話し合った一部始終をレポートします。

運営するカフェの中で、「人が育ち、文化が生まれ、時代がつくられていく場の力」を感じているという影山知明さん。「したいことを言葉にできる人は少数で、目的なくふらっと行った場所で多様な人に出会い、発見していくプロセスが大事だと思います」。思い描く究極は、「まちそのものがサードプレイスとして機能する未来」と話す。

サードプレイスの表と裏

影山:サードプレイスというキーワードで、今日はそれぞれの分野の方にお集まりいただきました。みなさんが運営されている場所について、いい部分の話はよく聞くのですが、苦労していることもきっとあるんだろうなと。まずはその話を聞いてみたいと思います。

薩川:皆さんに共通しそうですが、人と関わり合う、ということで悩むことが多いです。私はできるだけルールで縛りすぎず、そこにいるメンバーで自律的に問題解決していける集まりをつくっていきたいと思っているのですが、実際は大変です。

影山:北池さんが運営されているシェアキッチンやシェアオフィスは、どうですか?

北池:はい、シェアキッチンだと最大16人で1つのキッチンをシェアするのですが、例えば、綺麗な状態、と一言で言っても、一人一人の基準が違います。時にはそういった価値観の違いからトラブルになることもあります。空間をシェアする苦労はそこですね。

影山:どのように解決していますか?

北池:シェアする施設である前提を理解してもらい、協調性を持って利用していただける方か、事前にしっかり選考させてもらっています。でも、これってサードプレイスって誰もが受け入れられる場所という考え方とは、相反しているんですよね。

坂根:わたしが引き継いだスナックは、60〜70代の男性の常連さんが多く、私を含めた20代女子とは、文化やジェンダー感がまったく違いますね(笑) そういった多様な人たちにとって「心地良い」空間をどうやって作ろうかと考えている最中です。

この3月に一橋大学を卒業したばかりの坂根千里さん。国立にあるスナックを引き継ぎ、4月にプレオープンを迎えたばかり。国内のスナックはコロナで半減したとも言われるが、「あのノイズだらけの不思議な空間、“部屋っぽい”半私的空間に居心地の良さがある」と話す。

「すなっく・せつこ」は、ママであるせつこさんが長年営んできたお店。坂根さんはこの場所を新たに、街の社交場「スナック水中」と名付けた。

居心地の良さと内輪感

影山:居心地の良さを追求していくと、一方で、限られた人たちの内輪な居場所になってしまわないのか、という問いが生まれます。私たちのカフェでは、「常連に対してこそ、そっけなくする」というルールで運営していますが、皆さんはいかがですか?

坂根:スナックは、売上のほとんどを常連さんが作ってくれるというのが一般かもしれません。マイボトルがズラッと並んでますから。

影山:常連さんを大事にする文化があるんですね。

坂根:そういう側面はあると思います。先代のママは、一見さんが来店したときに、表面的にはママとして接するのですが、実は裏で「この人を客として受け入れていいのか」という目線ですごくチェックしていました。

影山:坂根さんは、スナックを引き継ぐにあたり、どうしようと思っていますか?

坂根:これまでの常連さんはすごく大事にしたい一方で、やはり新しいお客さんに来てほしいです。例えば、平日は常連さん向けにクローズドな雰囲気で、土日は扉を開く、みたいな。それで、ビジネスとしてどこまでできるかは、これから勝負です。

薩川:僕たちは、メンバー同士の集まりとは別に、外に開く機会をつくっています。ふらっと行って何もしなくてもいいくらいの場がないと、抵抗感があってコミュニティに接続できないという人も多いですよね。

北池:私もこの辺りは難しいと感じています。本当に、誰もが緊張せず、自由に出入りできる場所って、一体どこなんだろう。公園とか、駅とか、セブンイレブンとか(笑) それくらいパブリック性を持たないと、誰もが自由に出入りすることって難しいような気がしていて、もはや道で出会うのと変わらない。でも、それはただの公共空間であって、サードプレイスとは言えず、雑談したくなる仕掛けやプログラムが必要なんだと思います。

合同会社パッチワークス代表、空き家をスナックする会主宰の薩川良弥さん。コミュニティマネージメントをする上で大切にしているのは、「主体的に取り組むことを促してサポートすること」。「まちを良くしていく、という僕たちのコミュニティのビジョンを五感を通して感じてもらうために、場があることが必要だと思っています」。

元蕎麦屋の空き店舗を活用した「深大寺いづみや」では、2018年から少しずつ改装を進め、料理ワークショップなどを行っている。

サードプレイス=誰もが居心地良い場?

影山:SNSなどでよく言われますが、誰かとつながることは、ほかの人との分断を意味するという側面もあるように感じます。まちも同じで、常連化や内輪化が進むと、開かれているようで実は閉じているのでは…と。サードプレイスが蛸壺のようになってしまわないかという懸念がありますが、皆さんどう思われますか?

薩川:僕は、“サード”と“プレイス”は別で考えた方がいいのではという気がしています。今の時代では“サード”が求められていると思うのですが、“プレイス”である必要はない。言い換えれば、みんな“コミュニティ”を求めているのだと思います。

坂根:家や学校といった単一的な価値観から自分を解放できる場所の一つとして、スナックの可能性を感じています。私自身、初めてスナックに足を踏み入れた時の衝撃は忘れられません。これまで、大人=親や学校の先生だった中で、地域の色々な大人に出会い、色々な生き方に触れられたことがとても貴重な経験でした。

影山:坂根さん自身にそういった経験があるのですね。

坂根:でも同時に、同じ人であっても「今日はスナックじゃないな」って日があると思うんです。まちの中に場が多様にあればあるほど、その日に合ったところに行けるんじゃないかなと。

株式会社タウンキッチン代表で、リンジン編集長の北池。「とびきり居心地のいい場をつくるには、空間もさることながら雑談したくなる雰囲気やシステムが必要では」と考える。「居心地の良さの物差しは人それぞれで、年代、男女、障がいの有無などでまったく違うはず。いい場/よくない場というものはなくて、数と多様性なのではという気がしています」。

JR中央線東小金井駅近くの高架下、3つの創業支援施設が並ぶ「コウカシタ・ヒガコインキュベーション」。シェアキッチンやシェアオフィスのほか、物件紹介や空き家利活用といった不動産相談を通して、地域での創業をサポートしている。

北池:私たちのシェア施設を利用する創業者は、協調性やシェア施設への理解という側面で一定のセレクトをさせていただいていますので、影山さんのおっしゃる内輪になっているのかもしれません。ただ、その一人一人が自分の価値観で外に開いていれば、結果、入居者の数だけ多様なコミュニティが生まれると思っています。

影山:なるほど。僕はぶんじ寮という場を運営していますが、入居者をどう決めるかについて、メンバーと議論を重ねました。価値観の合う人が集まった方が運営は楽なんだろうけど、それはぶんじ寮らしくないと思い、結局、クジ引きで決めることにしました。はじめから、分かり合える前提で集まっていないからこそ、共通項を見つける加点主義になっていくし、折り合いをつける技術も身についていく。そんな場づくりがいいなと。

北池:それは、すごい! 

薩川:僕も、分断をつくりたいとは思いませんが、コミュニティを作る上では、やはり一定の価値観というか集まりになってくるように感じています。

北池:コミュニティの境界って緩やかで曖昧なものなんだと思います。なので、蛸壺のように周りを壁に囲われている状態とは違うのかな。大切なのは、その場に集まる人たちの考え方や捉え方で、自分のコミュニティ以外を認め合っていれば、分断は起きないと思います。

影山:そうですね。ぶんじ寮も、くじ引きで誰もが入居できると言いましたが、月1回の入居者会議に出席することが入居条件になっています。コミュニティって開く段階と閉じる段階があって、そのバランスなのかもしれませんね。

「コミュニティに恐さを持っている人は、遊びに行くくらいの感覚で、入ることに慣れていくといいのかなと思います」と薩川さん。「自分で場を開いてみること」も選択肢の一つ。

何かを共にすることで居場所を見つける

影山:今日の話の中で、“居場所である”ということ、一方で“参加する”という話もありました。beなのかdoなのかという部分について、どのように考えていますか?

坂根:うちはbeを重視したいです。スナックって、お客さんがお店を手伝ったり、自分も携わっているということを重視していることが多くて。役割を持つことで愛着を感じてもらいながら、お店側としては「ここまでよ」というルールを決めておくことが、居心地の良い場を生むのかなと考えています。

薩川:サードとしての場の役割を突き詰めていくなら、doに向かうべきなんじゃないかなと思います。皆が居心地良い場所って僕の中ではただのプレイスなので、サードと付くと、その先に人との関係性がほしいですね。

西国分寺駅からすぐの場所にある「クルミドコーヒー」。クルミド出版として出版事業にも取り組んでいる。2017年には、お隣国分寺駅近くに「胡桃堂喫茶店」をスタート。

影山:何もしなくていい、居さえすればいい、と言われて居心地の良さを感じられる場所って、ほとんど思いつかないですよね。皆で一緒に何かをするということが、安心感や居場所感を生んでくれる。doを通じてbeにたどりつくような印象があります。

北池:そうですね。動機づけとして、コーヒーを飲む、ママに会う、などの目的がないと行きづらいですよね。サードプレイスって、場を運営する側がどう定義するかではなく、その場を利用する側が、そこをサードプレイスと定義しているかどうか、が大切なのだと思います。

影山:サードプレイスは、数と多様性が大事という話もありましたが、多様な価値観や趣向に対応する場が、まちの中にいくつもあることが大事なんだと思います。場が増えるごとに、コミュニティも生まれ、まちが面白く、魅力的に変わっていく。今日のお話を聞いていただいた皆さんも、自分ならどのような場をつくるのか、ぜひ考えていただければと思います。今日はありがとうございました。

「コミュニティや場の安定を考えると、どうしても経済の話が出てきますよね。安定を追い求めることと開くことの間にある矛盾をいつも感じています」と北池。「僕たちの場は安定期に入りつつあると感じるので、これからどう開いていくかですね」と薩川さん。

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