そばではたらく
通勤時間010

無名のしごとを肩書きに

電動車いすは、どんな人に必要なのか。 それを明確に説明できる人がどれくらいいるのでしょうか。ましてや、電動車いすを改造するというしごとは、ほとんどの人に知られていない職種です。しかし、このしごとに使命を感じて起業を果たしたのが今回の主役である、車いす工房 輪の代表・浅見一志さん。

前編では、電動車いすとの出会い、はたらくことになった経緯、そして起業に至るまでの、天職を見つけた一人の男性の物語をお届けします。

直感が導いた運命のしごと

工業系の高校、専門学校を卒業した後、新卒として3年ほど勤めたのは、学生時代に培ってきた学力が活かせる半導体製造装置の機械設計をする会社でした。退職後、「日常生活で話しをしたり、出会う機会がない人たちと接してみたい」という思いを抱くようになり、障害者ヘルパーのアルバイトを始めます。このことがきっかけとなり、車いすの製造・販売・メンテナンスを行う有限会社さいとう工房への再就職を決めます。

重度の障害を持つ人が、補装具のひとつとして使用している電動車いす。既製品ではなく、使う人に応じてカスタマイズされていることに「こんなしごとがあるのか」と感動したと同時に、「電動車いすは、道具ではなく使う人の体の一部。誰かのケアを必要としなくてもできることがたくさんある」ことに興味を持ち、それを“自ら手がけたい”という強い感情に駆り立てられたそうです。

すでにある電動車いすを提供するのではなく、利用者にあったものを届ける。ユーザーと関係が深いのも納得です。

転職で出会った天職

補装具はもとより、電動車いすの仕組みや販売方法の知識も皆無だった浅見さん。転職後は、電動車いす、それを使う利用者と向き合うことに多くの時間を注ぎました。依頼があると打ち合わせを行う。1度ではなく、必要があれば2度3度…と何度も行う。メーカーが販売する既製品をベースにカスタマイズすることもあれば、大幅に作り直しをすることも。完成した電動車いすを納品して終わりではなく、実際に使ってみたからこそのリクエストも出てきます。

ただ目の前のことに真摯に向き合い、着実に技術や知識を身につけていく浅見さん。次第に「使う人の“できる”をひとつでも多くすること、“できる”が当たり前になること。電動車いすを利用する人の生活だけではなく、人生をも変えられる職業なのだ」という確信を抱くようになり、電動車いすを利用する人に携わることが天職となったのです。

改造するために必要な情報がびっしりと書き込まれたノート。

私生活の変化が導いた独立

電動車いすに関わるほとんどの業務を担当し、たくさんの人に出会い、話すことで生まれた浅見さんの生き甲斐。あれでもない、これでもないと模索を繰り返す製作、長時間の打ち合わせ…しごとが中心の生活を送る中、私生活において大きな転機を迎えます。

生活の拠点を都心から奥さんの地元である東村山市へ移すことになり、はたらき方を見つめ直した末、7年勤めたさいとう工房を退職。自宅からほど近い場所に車いす工房 輪を立ち上げます。浅見さんにとって、しごとも家族もどちらも切り離せない大切な存在。より密に、身近であるために必然の選択でした。

東村山駅から徒歩10分。住宅地の中にある事務所兼工房。

後編では、経営者としての心得、福祉業界の今後について伺います。(新居)

プロフィール

浅見一志

東京都東村山市を拠点に電動車いすの販売、修理、メンテナンスを行う。利用者からの声を元にオリジナルの福祉商品開発と販売にも力を入れる。公式HPのブログ、Facebookでは、車いすに関する情報だけでなく、スタッフの日常が垣間見られる記事も公開。

車いす工房 輪(くるまいすこうぼう りん)
http://koborin.com/