そばではたらく
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ぶれないはたらき方が手製本を広める

一冊の本から“手製本”という文化があることを知り、空想製本屋という屋号で活動をスタートさせた本間あずささん。スイスの製本学校で手製本の技術と知識を学んだ後、日本で製本家として唯一無二の本を作り、届ける彼女の今までとこれからについて詳しく伺いました。

妊娠&出産で拠点場所を中野から武蔵境へ

中野区で空想製本屋を営んでいた本間さんに妊娠というひとつの転機が訪れました。かねてより一軒家を住居兼アトリエにしたいと考えていた本間さんは、これを機に移住先を本格的に探し始め、最寄りがJR武蔵境駅になる築50年の木造平屋に移り住みます。同じ都内と言えども、活動場所を変えることはとても勇気のいる行動に思えましたが、「中野で借りていたマンションは、仮住まい的な感じだったので…」とあっさり。

その後、間もなくして出産。家族がひとり増え、出産前とはまるで違う生活が始まり、空想製本屋の活動はしばらく休止していたのかと思えば、意外な答えが返ってきました。「ずっと通ってくれている生徒さんもいたので、製本教室だけは出産後すぐにでも再開しようと思っていました。実際には、出産してから2ヶ月後くらいだったんですけど」と、本当はもっと早く再開されたかったような表情をする本間さん。製本教室をしている間、お子さんはどうされていたのでしょうか。「毎週土曜日に行っていて、夫もしごとを休めなかったので、子供を預けられる場所が見つかるまでは、実家の茨城から母に来てもらい見てもらっていました。教室以外の受注しごとが本格的に始められたのは、子供の保育園が見つかった1年後です」と、生活環境が一変しながらも「手製本の魅力を伝える」という確固たる攻めの姿勢は、まったく変わらなかったのです。

製本教室の基礎課程は18回。その後は、自分の好きなものを自由に作るスタイル。アトリエが、中野にある時から通っているという生徒さんも

受注しごとから、表現者としての一歩を踏み出す

空想製本屋の店主として、オーダーメイド手製本、本の仕立て直し、製品教室と3つのしごとを行いながら、“子育て”という任務も加わり多忙を極める本間さんでしたが、現状に留まることなく新たな一歩を踏み出します。それが、企画・発行を本間さん自身が行う、『庭の本』とタイトルが付けられた手製本のリトルプレスの制作です。

「空想製本屋とは別にMONONOME PRESSという屋号で発行しているリトルプレスで、表紙、紙を綴じる糸は庭の草木を使って染めています。移り行く季節を本で表現できたらいいなと思って。ただ、受注しごとや製本教室がメインのしごとなので、制作の進行は非常にゆっくりです。染色するのに必要な草木が満足に確保できないシーズンがあったり、染色自体に時間もかかって…制作を始めたのは2年くらい前ですが、今年の初め、ようやく春・夏・秋・冬の全シリーズがそろったので個展を開きました」。

“本からなる庭”をイメージして行った個展『本の庭、庭の本』では、手製本の工程、制作過程などを伝える展示物もあったようで、今までとは違ったアプローチで手製本の魅力を伝えています。

「いいものを少しずつ。受注しごとはもちろん、今後も自分の作品作りも続けていきたいです」と、表現者としての一面もみせてくれる本間さん。それはきっと、自分の手から生み出す本の完成度への飽くなき向上心に突き動かされたからなのでしょう。

春夏秋冬をテーマに、著作権の切れた古い詩、短歌、俳句を編集し掲載。読み手と日々をともにし、一緒に育っていけるような本作りを行うMONONOME PRESS

アトリエには、紙をはじめ生地や糸など、イメージを形にするための資材がズラリ

特別じゃなくて日常にあるものに

「本に対する思い、イメージ、形にならないものを具現化できる、手助けできるのは楽しいしごとですよね」と、手製本の魅力を話す本間さん。最後にこれからの活動の展望を教えていただきました。

「工芸でも陶芸や木工は、すでに世間に浸透していますよね。これらと手製本が同じように知られることは、難しいのかもしれませんが、手で作られた心地のいい本が、日常に普通にある時代がくればいいなと。決して高級なものではなく、いつもそばにある身近なものになるように発信していけたらと思います」

さらに続けて話します。

「空想製本屋をスタートさせた当初に比べれば、自費で本やアルバムを作る人たちが増えている気がするけれど、まだまだ『手製本って?』と聞かれるし、高級なイメージを持っている人のほうが多い。一人に対して一冊作る、そういう文化を日本でも根付かせていきたいですね。手製本を通じて広がる本の世界って本当に素晴らしくて素敵なんですよ。製本家として、私自身まだまだですけど、もっとたくさんの人に知ってもらえるように活動していきたいし、そういうしごとを長く続けていきたいと思っています」

自身の想いを大切にするために、古くからの伝統に敬意をはらいながらも、それに縛られることなく今の時代のニーズに柔軟に合わせ、大小問わず丁寧に取り組む努力を続けてきた本間さん。

理想とするはたらき方を手に入れるための、そして、やるべきしごとを生み出していくための小さな極意を教えてもらったような気がしました。(新居)

オーダーメイド手製本の仕上がりイメージは、依頼者との打ち合わせ時にポン!と浮かぶそう。制作期間は2ヶ月程度(注文状況によって異なります)

プロフィール

本間あずさ

東京都武蔵野市を拠点に空想製本屋の店主としてオーダーメイド手製本、本の仕立て直し、製本教室を中心に活動。少部数の本を一冊一冊、一人一人のために制作している。手製本のリトルプレスMONONOME PRESSの企画・発行も行う。
空想製本屋
http://honno-aida.com/