デザインは生活圏から届ける

2017.06.19
デザインは生活圏から届ける

都心から国立市へと、しごとや住まいの場を移してきたデザイナーの丸山さん。連載最終回は、デザイナーとしてのこの地域でのはたらき方について、そして今後の展望についてお聞きしました。そこには、独立当初から変わらないデザインに対するひとつの考え方がありました。

身のまわりからデザインしていく

都心のデザイン事務所や広告制作会社ではたらいていた頃は、大企業の広告や大きなプロジェクトにも参加していた丸山さんですが、デザイナーとして独立する少し前から、自分のしごとについて疑問を持つようになっていったと言います。

「会社にいた頃はそれなりに大きなしごともやっていましたが、当時は、それによって社会や自分の生活が豊かになっていくイメージがあまりなかったんです」

広告やグラフィックデザインが、経済活動をまわすための道具になってしまっているのではないか。それだけではなく、もっと身近なところからデザインが何かを変えたりできるのではないか。その疑問は、独立する前に立ち上げていたという丸山さんのウェブサイト名“circle-d”にも込められていました。

「circleはギャラリーの名前にもつけましたが、身のまわりというイメージと、部活動のような課外活動のイメージでつけているんです。経済活動のみを中心とした大多数に向ける大きなものというよりも、まずは自分の生活範囲からデザインしていきたいという思いがあります」

自宅3階のリビング。ギャラリーで展示をする作家に泊まってもらうことも多いという。
自宅3階のリビング。ギャラリーで展示をする作家に泊まってもらうことも多いという。

地域のことはそこに住む人がやる

「例えば、北海道の商品や観光に関わるしごとを東京のコンサルティングの人だけでやってしまう、とかになると、結局資本力の強い同じ企業が広がっていくだけなんですよね。だから僕は、地域のことはそこに住む人がやるのが理想だと思っています」

都心ではたらいていた頃から感じていたのは、デザイン事務所は、建築事務所などに比べると大きな看板などを表向きに出すことも少なく、地域に対して閉じられた存在だということでした。町とデザイナーの関わりを考える時、丸山さんはいつも意識していることがあると言います。

「僕は、町医者みたいなデザイナーになりたいと思っているんです。具合が悪い時に大病院よりも町医者に行っていた、という自分の原体験もあるのかもしれません。町に開かれていてすぐに会えたり、地域の人の様子も近いところで見ているから安心できたり。そういう町医者みたいなデザイナーが各地域にいれば、暮らしが豊かになっていくような気がするんです」

取材中、カフェのキッチンでコーヒーを淹れてくれる丸山さん。
取材中、カフェのキッチンでコーヒーを淹れてくれる丸山さん。

昔から住む人とどうつながっていくか

国立本店の店長から始まり、谷保でのしごとの広がりなども経て、現在は国立駅の近くに事務所を構えている丸山さん。この地域ではたらく中で、同じ志をもってはたらく仲間や知人も増えました。それでも、地域との関わり方については、まだ課題が多いと言います。

「新しく移り住んできた人たちが内輪で盛り上がっている、というところからまだ抜けられていないと思うんです。昔から住む人たちと一緒に何かできているかというと、そうでもない。例えばHOMAEBASEでいうと、地元の人たちがイベントの時に寄ってくれたり、外の町から遊びに来た人が帰りに商店街でも買い物をしてくれたり、そういうことで少しずつ地域とつながっていくものかなと思っています」

突然何かを一緒に始めるのではなく、生活の中で徐々につくりあげていく。遠くからはたらきに来ているのではなく、暮らしに近い場所でしごとをしているからこそ、積み重ねられる時間や関係があるのかもしれません。

撮影中、自宅前を偶然通りかかった知人としごとの雑談。
撮影中、自宅前を偶然通りかかった知人としごとの雑談。

活動領域を広げるための法人化

2017年1月、丸山さんはコミュニティデザイナーの洪華奈さんと共に「株式会社 と」を設立しました。社名には、デザイン自体が中心になるのではなく、あくまで主題に対してデザインでアプローチしていく(design to)という意味と、他者“と”一緒にしごとをしていく、という想いが込められています。

「僕が考えるデザインの要素の中には、印刷物やプロダクトなどの可視化されるものだけではなく、企画やコミュニティづくりなど、あらゆる業種が組み合わされていて、そこで何ができるのかという想いがいつもあります。地域でしごとをしてきた中で、グラフィックはデザインのひとつの職能であって、そこだけでは解決できないことが多いということもわかってきました。そこで、デザインの活動領域を広げてしごとをしていくために、洪華奈さんと協働することにしました」

今後は、国立や谷保だけではなく、多摩全域を見据えてしごとを広げていきたいと言います。デザインには、経済活動をまわすだけではなく、人を集めたり、コミュニティをつくったりする力がある。独立当初から変わらないその想いをより明確にし、実現していくための会社も立ち上げた丸山さんが、デザインを通して今後どのように社会や地域と関わり合っていくのか、とても楽しみです。(安達 写真・鈴木智哉)

国立〜谷保エリアで定期的に開催される”ゆる市”。この日はHOMEBASEや隣のmusubiも会場となり、お客さんで賑わった。
国立〜谷保エリアで定期的に開催される”ゆる市”。この日はHOMEBASEや隣のmusubiも会場となり、お客さんで賑わった。
連載一覧

店舗併用住宅に暮らすデザイナー

#1 商店街に建つパブリックな家

#2 はたらく場所を都心から国立へ

#3 デザインは生活圏から届ける

プロフィール

丸山晶崇

デザイン事務所、広告制作会社などを経て、2009年に独立。国立本店の三代目店長を経て、2011年に国立市谷保にやぼろじを共同で立ち上げる。2013年、やぼろじ内にギャラリー・circle [gallery&books]をオープン。2016年、自宅の1階を飲食店スペースにしたHOMEBASEを始める。2017年に「株式会社 と」を立ち上げる。
http://www.design-to.co.jp
http://circle-d.me

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