モビリティがつくるまちの境界

2025.05.21
モビリティがつくるまちの境界

日本でまちづくりや地域活性の仕事に携わったのち、2024年4月から1年間フィンランドに滞在していたライター・杉田が現地で見た景色や感じたことをコラム形式でお届けします。今回は、自転車に関する話です。

東京の実家には車がなく、大学生の時に運転免許を取得してからも、自分の車を持たずに生活をしていたため、わたしにとって、昔から徒歩以外の移動手段といえば自転車。フィンランドでも、会員制のレンタサイクルを年間契約して、夏場はほぼ毎日利用していました。

歩道、車道、自転車道が明確に区分されていて、駐輪場が豊富、さらにレンタサイクルシステムの便利さから、自転車での生活はかなり快適です。残念ながらレンタサイクルは雪に備えて11月ごろには撤去されてしまうため、冬の期間は利用できませんでしたが、夏には黄色いボディの自転車を走らせ、スーパーや図書館、森、海辺など、あちこちへ出かけました。

また、近年日本でも都心を中心にLUUPが普及しているように、フィンランドでも若者を中心に電動スクーターが日常的に使われているのをよく見かけます。ただ、スピードが時速20km近くになる電動スクーターは事故が多発し、社会問題にもなっているのだそう。特に若者がルールを無視して2人乗りをしていたり、道端に転がるように駐車されている光景はよくあることで、便利な反面、課題も多そうなのが率直な印象。わたしも何度か乗ったことがありますが、スピードが出過ぎるのが怖くて、使うのをやめてしまいました。

レンタサイクルと同じく、新たなモビリティとして電動スクーターもかなり普及している
レンタサイクルと同じく、新たなモビリティとして電動スクーターもかなり普及している

レンタサイクルは日本と同じように、まちなかに点在するレンタサイクルポートで乗り捨てが可能。専用のアプリで簡単に利用ができ、1時間以上離れたビーチへ出かけたものの、体力不足になって、近くのレンタサイクルポートで返却し、帰路はバスでなんていうこともしていました。

ただ、市街地から離れると歩道と自転車道の境界があいまいな場所もあり、うっかり気が付かずに歩道を走ってしまい、通りがかりのご婦人にフィンランド語で叱られてしまったことがあります。それも一度ではなく、繰り返し…そんな時は慌てて自転車から飛び降り、ぺこぺこと頭を下げて謝罪。すると、大抵正しい道を教えてくれます。

異国の言葉で嗜められると、つい小さくなってしまいますが、女性は「わかったならいいのよ」 といった表情で静かに立ち去っていきました。決して感情的に怒鳴りつけるのではなく、冷静に正しいルールを教えてくれる、フィンランド人らしい対応だったと思います。

フィンランドは夏でも気温が25度以下と快適な気候。晴れた日のサイクリングは気持ちがよくて、気がつくとずいぶん遠くまで来ていることも
フィンランドは夏でも気温が25度以下と快適な気候。晴れた日のサイクリングは気持ちがよくて、気がつくとずいぶん遠くまで来ていることも

国外での運転はハードルが高く、公共交通機関の交通費も決して安くないフィンランド。レンタサイクルや電動スクーターの詳細なプランはエリアごとに異なりますが、数時間から1日単位で利用可能です。観光で訪れる方も、現地の住民気分で、自転車やスクーターで颯爽とまちを駆け巡るのもいいかもしれません。

ユニークでかわいらしい駐輪場のデザイン
ユニークでかわいらしい駐輪場のデザイン
自転車のサービスステーション
自転車のサービスステーション
空気入れだけでなく、工具が設置されていて、簡易的な自転車の修理をセルフで行うことができる
空気入れだけでなく、工具が設置されていて、簡易的な自転車の修理をセルフで行うことができる

プロフィール

杉田映理子

1994年東京都生まれ、ライター。地方のデザイン会社でライター・編集者として、7年間にわたり、さまざまな自治体のプロモーションやまちづくり、イベント企画に携わったのち、2024年4月から2025年3月までの1年間、フィンランドに滞在。本連載ではフィンランドでの日常を“まちづくり”や“デザイン”の視点で切り取り発信中。

https://www.instagram.com/e_sary125/

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