公園を次世代へつなぐ、愛と技術

2024.05.31
公園を次世代へつなぐ、愛と技術

武蔵境の農家に生まれ育ち、「日乃出造園土木」を営む舩木功さん。武蔵野市内の公園を数多くつくり、その後何十年にもわたって、植物や通路のメンテナンスを続けてきました。この道47年の匠は、「次の世代へとつなぐことこそが技術」と語ります。葉っぱの1枚、根の1本を見つめる繊細な目線と、公園全体を俯瞰する広い視野の両方が必要な造園の仕事。舩木さんは、どのような信念を持って経験を重ねてきたのでしょう。

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公園の木々を見回る現場監督

日乃出造園土木では、天候などを見ながら、1日に複数の現場で作業を行います。その責任者として、現場監督を務めるのが舩木さん。個人宅のお客さんは創業当初から何十年来のお付き合いということも多く、舩木さんに会うことを楽しみにしているそう。あちこちの現場を回って状況を確認し、必要な指示を出すのが舩木さんの日課です。

「落葉樹は11月末から2週間くらいかけて葉が落ち、常緑樹の場合は、3、4月に新芽が出ると古い葉が落ちる。植物の知識を持っていれば、枝を落とすべき時期を見極めることができます。今日作業をしている『野鳥の森公園』は、わたしたちが造園をしてから20年以上経ちますが、風景がとても自然に見えるでしょう。なかなかこんなに大きな木はないので、大切にしていかないとね」

特殊車両や大型車両、重機の操縦、職業訓練指導員、造園技能士、造園・土木施工管理士など、造園の仕事にはたくさんの免許が欠かせない
特殊車両や大型車両、重機の操縦、職業訓練指導員、造園技能士、造園・土木施工管理士など、造園の仕事にはたくさんの免許が欠かせない

作業をしていると、通りかかった近所の住民から、「どれくらい切るんですか」と心配の声をかけられたり、逆に「掃除が大変だからもっと切って」と話しかけられることもしばしば。

「気持ちとしてはね、ばっさり切るようなことはしたくない。木がかわいいし、それに公園ですから。木は切るほど傷むし、病気になりやすい。人間が腕を怪我したときと同じように、枝がふくれたり、赤みを帯びたりします。全部枝を落とすと、水を吸い上げることもできないし、木の価値がなくなってしまう。わたしが子どもの頃には、公園に遊びに行って木登りをして、土で真っ黒になって帰ってくるような日常がありました。本当なら、そんなふうに木に触れて、公園を使ってもらえると一番いいのにと思わずにはいられないね」

一度は造園以外の会社で働いた舩木さん。若い人には、「色んな職業を経験してみろと言いますよ。事務したり、蕎麦でも食べに行ってみたり。やってみないと自分にあってるか、長持ちするのかわからないだろ」と話すそう
一度は造園以外の会社で働いた舩木さん。若い人には、「色んな職業を経験してみろと言いますよ。事務したり、蕎麦でも食べに行ってみたり。やってみないと自分にあってるか、長持ちするのかわからないだろ」と話すそう

植物好きが高じて仕事に

子どもの頃から植物が好きで、いつかは造園の会社を立ち上げようと考えていた舩木さん。準備期間として15年ほど運送会社に勤務しながら、土日は造園業の現場でアルバイトをし、当時世田谷にあった造園学校に通う日々を送りました。そして33歳で「舩木造園」を立ち上げます。

「家が武蔵境の農家ですから、『あの家の息子が植木屋になったぞ』と話が広がって、知り合いの庭の手入れをずいぶんさせてもらいました。あの頃は高度経済成長期の只中で、畑を手放して建売住宅をつくる人が多く、その家に小さい庭をつくりたい人であふれていたように思います。今では、作庭を依頼される個人のお客さんは3割ほどと少なくなって、主に武蔵野市が管理する公園のメンテナンスをしています」

クレーンを使った高所作業。武蔵野市の公園には、武蔵野台地を感じる植物や大きな木が多い
クレーンを使った高所作業。武蔵野市の公園には、武蔵野台地を感じる植物や大きな木が多い

「公園を新たにつくるときには、設計屋さんの図面を変えてもらったりして、市の担当者ともさまざま意見交換をしました。ただ整備するんじゃなく、美しく、面白くしたい。わたしがいいなと思うのは、日本庭園の要素ですね。公園の近所に住む方から譲り受けた大きな庭石を使って茶室のつくばいを模してみたり、山をイメージした起伏をつくってみたり。説明の立て看板でも立てたいくらい、どの部分にも意味があって、思いが込めてあるんです」

「子どもの頃、学校から帰るといつも親と一緒に畑に出ていましたが、そうしているうちに、気がついたら植物が好きになりました。惹かれたのはやっぱり、美しさでしょうね」と舩木さん
「子どもの頃、学校から帰るといつも親と一緒に畑に出ていましたが、そうしているうちに、気がついたら植物が好きになりました。惹かれたのはやっぱり、美しさでしょうね」と舩木さん

世代を超えて受け継ぐ技術のバトン

9人のスタッフを抱える日乃出造園土木。舩木さんを中心に3世代の力を結集して続けてきました。

「造園の現場に女性がいるのはとてもめずらしい時代から、妻とは長らく現場作業員として苦楽を共にしてきました。好きなことをするのが一番。男女関係なく仕事を楽しむ2人の背中を見てきた娘や孫は、自分から『一緒に働きたい』と言ってきました。どこまでやれるかわからないけど、まぁやってみろと。現場に出ている孫にのこぎりやスコップの使い方は教えますが、あとは本人の感性に任せます。美的感覚ですね。言われた通りに切るだけではなくて、きれいに残す。人間の髪の毛と同じです」

成長を見守りながら、一つだけ、必ず守るように伝えることがあります。

「『1年後に必ず見に行きなさい』と言います。どこから芽が出ているか、切った枝が思い描いた通りに伸びているか、自分の目で確かめる。本当の結果は1年後を見ないとわかりません。木々やその美しさを次に繋ぐことこそが技術なのだと思います」

舩木さんは自らの仕事についてこう語ります。

「好きではじめた造園業を今も現役で続けられているのは、お客さんはもちろんのこと、たくさんの方々に支えていただいているからだと日々感謝しています。生まれ育った武蔵野に、自然を通して少しでも恩返しができれば最高に幸せです」

何気なく通りすぎたり、木々を見上げていた公園。そこには、匠たちが何十年もかけて受け継いできた技術の伝承がありました。

長い経験年数の中で、舩木さんはこれまでに9度の受賞歴がある
長い経験年数の中で、舩木さんはこれまでに9度の受賞歴がある
クレーンで作業する孫の姿を見守る舩木さん
クレーンで作業する孫の姿を見守る舩木さん

プロフィール

舩木功

運送会社への勤務ののち、昭和52年に「舩木造園」を設立。その後、商号変更を経て、平成13年から株式会社日乃出造園土木の代表取締役。武蔵野市内の公園を中心に、個人・行政を問わず造園を手がける。国土交通省「都市公園コンクール・建設事務次官賞」、環境省「多自然型まちづくり・環境大臣賞」など受賞多数。

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