都会と郊外はどちらが住みやすい

2017.05.08
都会と郊外はどちらが住みやすい

戦後の経済成長による労働人口の増加に伴い、宅地開発が進んだ東京の郊外。まちとしての成熟期を迎えた今、改めて郊外の存在を見直そうという動きが見られます。
2017年3月に、新宿のリビングデザインセンターOZONEで行われた企画展、小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめもそのひとつ。展示では、郊外を住まいとして捉えるだけではなく、暮らす場所、はたらく場所としての郊外の在り方を提案しています。
そして3月20日には企画展と連動したシンポジウム、郊外の未来を考える 住みたい・働きたい街は自分で作ろう!が開催されました。リンジンでは、シンポジウムの後半に行われたパネルディスカッションの模様を、4回に分けてお届けします。

郊外って住みやすいの?

ーそもそも郊外って、住みやすいんでしょうかね?

最初に投げかけられたこの問いに対し“適度な情報量”を挙げたのは、家具デザイナーの小泉誠さんです。小泉さんは「家賃が手ごろだから」という理由で、広尾から国立にある公団の団地に引っ越してきたのが郊外暮らしの始まりでした。それから都内に住む両親を呼び、事務所の一部を改装してこだわりの生活雑貨を揃えるお店を開くなど、30年にわたり国立暮らしを実践する一人です。

小泉「都会にいる頃は、あらゆる情報が次から次へと飛び込んでくる毎日で。飲み込むことに精いっぱいで溺れそうな自分がいました。しかし国立に越してきてからは、情報を見定める余裕があります。自分の意思で選べることは、郊外の大きなメリットに感じます」

箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛けている小泉誠さん。
箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛けている小泉誠さん。

反対に、郊外ならではの“選択肢の豊富さ”を挙げたのは、法政大学現代福祉学部教授の、保井美樹先生。エリアマネジメントを専門とし、戦後の多摩地域における宅地開発をはじめ、郊外における地域づくりとコミュニティについて詳しい知見をお持ちです。

保井「子どもができてからは三鷹駅近くに落ち着いています。私は相模原のキャンパスに通勤し、夫は都心へ通い、そして子どもは近くに通学しています。自然が近い、生産者がいる、土を感じられる暮らし、これを都心の近くでもできてしまう。親と一緒に暮らすことなども含め、多様な暮らしを受け止める余地が、郊外にはあるように思いますね」

「郊外には多様な暮らしを受け止める余地がある」と、保井美樹法政大学教授。
「郊外には多様な暮らしを受け止める余地がある」と、保井美樹法政大学教授。

地域に明るい光を灯す

郊外での暮らしを再開したことで、“懐かしい出会い”を得た人もいます。そばの実カフェ soraを経営する小池ともこさんは、ご家庭の事情により東村山の実家に戻ってきました。

もともとご自身で蕎麦粉を使ったお菓子を作り、販売していた小池さん。このタイミングで実家をリフォームし、小さなカフェスペースをつくりました。家の一部をパブリックスペースとして共有する、“住み開き”をスタートさせたのです。

小池「オープン中は入り口の門を外して、誰でも入れるようにしています。近所に住んでいた同級生は、帰省した時に遊びに来てくれます。もしsoraがなければ、再び会うことはなかったでしょう。また近所のおばあちゃんが、娘さんと一緒に杖をつきながら来てくれるんですよね。うちの母と楽しそうに話している様子を見ていると、地域に明るい光を灯すことができたのかなと感じますね」

小泉誠さんが設計された建物などが集まる相羽建設の拠点、つむじ。
小泉誠さんが設計された建物などが集まる相羽建設の拠点、つむじ。

そして、郊外が住みよいかどうかは「分からない」と答えた人も。東村山で続く工務店、相羽建設代表取締役の相羽健太郎さんです。相羽さんは“地域に根ざした工務店”であることを掲げ、小泉さんらと共に人と文化の出会いの場であるつむじという交流施設を市内につくりました。

相羽「郊外にしか住んだことがないので、比較のしようがないんです。でも、東村山に住まざるを得ない状況にいるので、郊外を住みやすいまちにしたいという思いが人一倍強いのかもしれません」

三者三様ならぬ、“四者四様”の郊外感が浮かび上がってきました。(たなべ)

当日の来場者は7割ほどが郊外在住ということもあり、終始興味深く話を聞く人が多く見受けられた。
当日の来場者は7割ほどが郊外在住ということもあり、終始興味深く話を聞く人が多く見受けられた。
連載一覧

郊外はどこへ向かう
郊外のすゝめシンポジウム

#1 都会と郊外はどちらが住みやすい

#2 暮らしの選択肢を広げる“余白”

#3 日本型郊外ワークスタイルの予感

#4 住みたいまちは自分たちでつくれ

プロフィール

小泉誠

家具デザイナー。1960年東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に従事後、1990年Koizumi Studio設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年からデザインを伝える場としてこいずみ道具店を開店し、デザイン活動を再開、デザインの素出版。2005年ギャラリー間展覧会、と/to出版。2007年小泉誠展匣&函。2013年毎日デザイン賞。2015年わざわ座発起。2016年地味のあるデザイン出版。2016年日本クラフト展対象。
http://www.koizumi-studio.jp/

保井美樹

法政大学現代福祉学部教授。1969年福岡生まれ。NY大都市計画博士、工学博士(東京大学)。米Institute of Public Administration、世界銀行、東京市政調査会、東京大学等を経て、2004年より法政大学。エリアマネジメント、官民連携まちづくりを専門とし、研究の傍ら各地で実践の支援を行う。近著に最新エリアマネジメント(共著、学芸出版社、2015)。
http://yasuilab.ws.hosei.ac.jp/wp/?page_id=12

小池ともこ

そばの実カフェsoraオーナー。1964年東京生まれ、大学卒業後、会社勤務を経て結婚を機にマクロビオティックの食事を実践。マクロビ系の飲食店を経て、2015年実家をリフォームしたそばの実カフェ soraをオープン。蕎麦粉を使った菓子やパンを販売し、ワークショップそば粉の実験室を主宰。
http://ameblo.jp/sobanomicafe-sora/

相羽健太郎

相羽建設株式会社代表取締役。1973年東京生まれ。神奈川大学卒。一条工務店を経て1998年に相羽建設入社。建築家の故・永田昌民氏や伊礼智氏、家具デザイナーの小泉誠氏との協働をはじめ、建築業界や行政、地域との価値観に基づくつながりの中で“創発”が生まれるプロジェクトを多数進めている。東村山空き家対策協議委員。一般社団法人わざわ座理事。
http://aibaeco.co.jp/

小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ

http://kougainosusume.jp/

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