暮らしの選択肢を広げる“余白”

2017.05.11
暮らしの選択肢を広げる“余白”

郊外での住まい、暮らし、はたらき方を考える企画展小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ(3月16~28日、新宿・リビングデザインセンターOZONEで開催)との連動企画として開催されたシンポジウム郊外の未来を考える 住みたい・働きたい街は自分で作ろう!。
前回は、“郊外は住みよいのか”というテーマに対する、パネリストの皆さんの考えを紹介しました。第2回はさらに郊外の住まいやはたらき方について、掘り下げていきます。

都心との暮らしの違いは?

ー郊外の暮らしって、都心とは具体的には何が違うんでしょうかね?

小泉「郊外に長く住むことで、郊外での暮らしこそ、自然で健全だと思えるようになってきましたね。新宿や銀座などの都心を歩いていると、何かこう、構えていないといけないというか、息苦しい感覚に襲われるんです。なんだか東京は日本じゃないような気持ちになって。その点、郊外だと気持ちも含めて自然体でいられるような気がします」

郊外の暮らしについて話すパネリストたち(左から小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)。
郊外の暮らしについて話すパネリストたち(左から小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)。

デザイナーならではの感性で、郊外での暮らしを表現された小泉さん。それに対し、相羽さんは工務店ならではの視点で、都心との違いを語ります。

相羽「単純に、都心と郊外では地価が違いますよね。そうなると、住まいの形も違ってきます。都心の場合は小さい土地に、建ぺい率ギリギリで3階建てを建てるか、もしくはマンションという選択肢になる。でも郊外なら戸建ても前提で住まいを考えることもできます。都心に比べて郊外の場合は建ぺい率が低い設定になっていることが多いんですよね。僕らの仕事は建物の周りの余白をどう生かすか、ここに他との差別化が生まれるわけです」

相羽建設2代目の相羽健太郎さん。家業を受け継ぐにあたり、営業エリアを狭めるのと引き換えに、地域との関係構築に注力することを決めたそう。
相羽建設2代目の相羽健太郎さん。家業を受け継ぐにあたり、営業エリアを狭めるのと引き換えに、地域との関係構築に注力することを決めたそう。

住み方の選択肢が増える

相羽「例えば都心は建ぺい率が高いので、家と家の間に余裕が無くてパンパンなんですよね。ですから、壁や塀が必要になってきます。片や郊外の場合は、例えば建ぺい率が4割なら残りの6割は余白ですから、塀で囲う必要性は低くなるわけです。よりオープンに、外に開く住まいこそ、郊外らしさが感じられるような気がしますね」

自分の住まいの一部を外に開くといえば、“住み開き”もそのひとつです。

ー小池さんは、自宅の一部をカフェスペースとして周りに開放していますが、怖くなかったですか?

小池さんは、シンポジウム前半のプレゼンテーションで、自身が運営するカフェと住み開きについて紹介した。
小池さんは、シンポジウム前半のプレゼンテーションで、自身が運営するカフェと住み開きについて紹介した。

小池「最初のうちはあまりお客さんが来なくて。近所のおばさんが1、2人いらっしゃるというところから始まったから、安心できたのかもしれませんね。また、“そば粉を使っている”というテーマがあるからか、最初から目的をもってお店にいらっしゃる方も多いんです。電車やバスを乗り継いて来られる方もいますね」

ー小泉さんは郊外での住まいをデザインするうえで、気をつけていることなどありますか?

小泉「結局、“住む人がどうしたいのか”ということが大切な気がします。郊外で暮らすからといって、“つながり”が押し付けになってもいけないわけで。“住み開き”についても、手法のひとつに過ぎません。郊外になると、都心に比べて“どう暮らすか”の選択肢が増えると考えるのが自然な気がします」

郊外と職住近接の関係とは

ーところで、これまで郊外は“住む場所”としての価値を見出してきたわけですが、“はたらく”という点ではどうなんでしょう。郊外で、実際にはたらくことって可能なことなのでしょうか。

“住む場所”としての郊外が“はたらく場所”となる。これは、“職住近接”の実現にもつながります。

相羽「打ち合わせなどで午前中に都心に行くこともあるのですが、満員電車に揺られながら『(自分には)ずっとこのはたらき方をするのは無理』と思うことがあります。もし、僕が新宿に勤めていたら、中野や新宿あたりに住んでいたような気がします。職住近接のメリットは大きい。ですから、職住近接のメリット以上の何かがないと、都心ではたらく人が郊外に移ることは難しい気がしますね」

シンポジウム冒頭では、東京を取り巻く交通網にも触れた。都市と郊外を結ぶ重要なパイプラインだが、発達しているために“職住近接”が実現しにくいという面も。
シンポジウム冒頭では、東京を取り巻く交通網にも触れた。都市と郊外を結ぶ重要なパイプラインだが、発達しているために“職住近接”が実現しにくいという面も。

ここには、“はたらく場所”が都市に集中しているという現実が立ちはだかります。都市が男性的とするなら、郊外には非男性的なまちづくりのデザインを提案する法政大学教授の保井先生は、都市と郊外では“はたらく”の意味合いが違うのではと指摘します。

保井「例えば、大学を卒業したばかりの人が一戸建てに住んで、郊外の企業ではたらくという姿は現実的ではないですよね。郊外で職住近接を実現している人は、都心で今までやっていたことをいったん辞めて、それからはたらき方を変えたり、新しいことを始めたりする過程を経ています。“スタートから郊外で”というはたらき方は、稀なケースではないでしょうか」

はたらき方の議論は、まだまだ続きます。(たなべ)

連載一覧

郊外はどこへ向かう
郊外のすゝめシンポジウム

#1 都会と郊外はどちらが住みやすい

#2 暮らしの選択肢を広げる“余白”

#3 日本型郊外ワークスタイルの予感

#4 住みたいまちは自分たちでつくれ

プロフィール

小泉誠

家具デザイナー。1960年東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に従事後、1990年Koizumi Studio設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年からデザインを伝える場としてこいずみ道具店を開店し、デザイン活動を再開、デザインの素出版。2005年ギャラリー間展覧会、と/to出版。2007年小泉誠展匣&函。2013年毎日デザイン賞。2015年わざわ座発起。2016年地味のあるデザイン出版。2016年日本クラフト展対象。
http://www.koizumi-studio.jp/

保井美樹

法政大学現代福祉学部教授。1969年福岡生まれ。NY大都市計画博士、工学博士(東京大学)。米Institute of Public Administration、世界銀行、東京市政調査会、東京大学等を経て、2004年より法政大学。エリアマネジメント、官民連携まちづくりを専門とし、研究の傍ら各地で実践の支援を行う。近著に最新エリアマネジメント(共著、学芸出版社、2015)。
http://yasuilab.ws.hosei.ac.jp/wp/?page_id=12

小池ともこ

そばの実カフェsoraオーナー。1964年東京生まれ、大学卒業後、会社勤務を経て結婚を機にマクロビオティックの食事を実践。マクロビ系の飲食店を経て、2015年実家をリフォームしたそばの実カフェ soraをオープン。蕎麦粉を使った菓子やパンを販売し、ワークショップそば粉の実験室を主宰。
http://ameblo.jp/sobanomicafe-sora/

相羽健太郎

相羽建設株式会社代表取締役。1973年東京生まれ。神奈川大学卒。一条工務店を経て1998年に相羽建設入社。建築家の故・永田昌民氏や伊礼智氏、家具デザイナーの小泉誠氏との協働をはじめ、建築業界や行政、地域との価値観に基づくつながりの中で“創発”が生まれるプロジェクトを多数進めている。東村山空き家対策協議委員。一般社団法人わざわ座理事。
http://aibaeco.co.jp/

小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ

http://kougainosusume.jp/

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