7回目の「まちのインキュベーションゼミ」が、12月9日にクロージングを迎えました。スタートから4ヶ月を経て、7チームのアイデアはどう実践され、参加者たちは今何を感じているのでしょう。様々な年齢・キャリア・動機の30人が集まり、切磋琢磨しながらはじめの一歩を踏み出したゼミの様子をレポートします。
子どもの欠食や孤食をなくしたい。そんな思いから、常設性のある子どもの居場所をつくろうと、「かっぱ食堂プロジェクト」をスタートした後藤さん。調査や実践を通して、事業化への可能性を探りました。
まずは家庭のニーズや子どもの実態を知るため、小金井市の学童保育所利用者にアンケート調査を実施。724件もの回答があり、19時までにお迎えにいけない、夕食前に子どもが寝てしまう、4年生以上は学童に預けられないなど、保護者の困り事も見えてきました。
そして小金井市の尼寺・三光院を会場に、1日限定で「かっぱ食堂」をオープン。40世帯、子ども52人、大人34名が参加し、豚汁や炊き込みご飯、デザートなどが提供され、みんなで食事。子どもたちの笑顔あふれるにぎやかな1日になりました。
ゼミ参加者や地域の人、学童保育所関係者など、たくさんの方が関わり、つながる場所を大切にしたいと強く感じる一方で、金額設定では参加者と運営側のギャップがあったという後藤さん。ボランティアを有償にすること、そして一度だけでなく継続させていくことが今後の課題だと言います。
ママが居場所を感じられる場をつくりたいとゼミに参加した増淵さん。最初は具体化されていなかったアイデアが、得意な編み物・染め物と混じり合い、「手仕事のあるライフスタイルを提案する」ことを軸に、進化していきました。
今回の実践では、地域の身近な植物で染色した絹製品の販売や糸の展示、手仕事イベント「編む会・紡ぐ会」や子ども向けワークショップ、オンラインショップなど、様々なことに挑戦することに。まずは農園や園芸店などネットワークを作り、地域で採集できる植物の知見を広げ、実際に採取&染色。そして、吉祥寺のイベントでポップアップショップを開き、染色した糸の展示や絹製品の販売・ワークショップなどを行いました。
「やってみたいと思いながら、これまで実行するには至らなかったことを網羅的に試してみることができたことで、できることと、できないこと、課題がわかったのが大きな収穫でした」と話していた増淵さん。今回様々なことに挑戦した中でも糸仕事は一番取り組みたい分野で、他に似たサービスもないため、これから道を探っていきたいと言います。
実家の庭の管理がとにかく大変で助けてほしいという悩みから、シェア・ガーデンの構想が広がった今川さん。まずは、庭を一緒に育てる仲間づくりからスタートすることに。単に庭仕事をしてもらうのではなく、庭の果実やハーブを収穫し、料理して食べる体験を共有するのはどうか?と、「土いじり」と「採れたてを食べる楽しみ」をテーマに実践を行いました。
メンバーの協力のもと、庭を開放してレモンの収穫やオリーブの植え付けを行い、その後は採れたてのレモンでパスタやケーキをつくってみんなで試食。おいしさを実感しながら、楽しい会合になりました。ゼミを通して生まれた出会いやつながりも、今川さんの一つの糧になったようです。
そして事業化していくために、造園DIYで荒れた庭を整備し、セキュリティ面でも安心できるビジネスモデルづくりを目指します。
日本語教師の福島さんは、「日本食が美味しい」という生徒たちの声をヒントに、訪日客に向けた日本料理の体験を広げたいと、新しいビジネスを考えました。
実践では、「古くて新しい日本の味に出会える場」をテーマに、自宅でお豆腐作りのワークショップを開講。スロバキアの女性が参加し、大豆から豆腐を作り、実食まで行いました。英語でのレシピを用意し、作り方による豆腐の種類の違いや、豆腐の歴史に関するレクチャーもあり、豆腐を使ったお好み焼きとファラフェルも提供しました。
今回の実践で、様々な気づきを得たという福島さん。参加者の声から料金とメニューの見直しが必要だと感じ体験メニューやコンテンツを増やすとともに、まずは訪日旅行者向けの料理体験サイト「air kitchen」で集客し、その後は自らHPを作って運営していきたいと戦略を練ります。
国分寺市にある空き家を活用したいとゼミに参加した北田さん夫妻。売れない空き家をいかに有効に予算をかけずに活用するか。不便な立地にどう集客を図るのか。さまざまな課題を抱えながらメンバーと意見交換を行う中で、まずは空き家周辺で行われる地域イベント「ぶんぶんウォーク国分寺」に参加して、地域の方と接する機会を設け、空き家の活用に向けた調査をすることに。もともと考えていたカフェを念頭に、ドーナツや紅茶の販売も行いました。
二日間行われた実践では、天候が売上に大きく影響することや、商売の厳しさを実感したという北田さん。また、そばにあったらいいなと思う場所についてアンケートをとったところ、「お茶が飲める場所」が多くの票を集め、カフェの有効性を再確認したようです。
さらに、メンバーと議論する中で、美大生が利用できるサロンや日替わりでバリスタが変わるカフェなどのアイデアも出てきて、再度計画を検討中。ゼミメンバーとの時間は大切な時間だったと振り返り、「やりがいのある地域に寄り添ったビジネスを模索したい」と話します。
大学院で土について研究し、土の専門家でもある新井さんが目指すのは、食と土や農の知識をつなげる地域イベントを定期的に開催すること。実践では、わくわく都民農園小金井を会場に、地層についてのミニ講座を開いた上で、地層に見立ててスポンジやクリーム・プリンなどの食材を用いて地層パフェづくりを行い、畑を見ながら実食しました。
子どもから大人まで多くの参加者が集まり、洞窟や竹藪などそれぞれのイメージの地層をパフェ作りながら、あちこちから質問が。新井さんにとっても、こうした体験型のイベントは初めてで、学びの多い時間だったとか。
今後は、SNSや冊子で土や農の豆知識を発信するほか、イベントのターゲット層を変えたり、旬ごとに開催内容を変えるなど、バリエーションを変えながら取り組みを継続していきたいと話します。
齋藤さんのアイデアは、子育てで忙しいママが“行ってよかった”と思えるスナックをつくること。アイデアの根底には、ママにずっと元気でいてほしいという願いがあります。
今回の実践では、まずは調査を通して、実際にスナックに通える条件や魅力的なコンテンツを検証。ニーズや時間、価格、場所、コンテンツなどを明確にすることを目的に、ターゲット層向けアンケートを行いました。
56人の子育て中のママから回答があり、7〜8割がスナックに一度は行きたいと思っている一方で、友人や家族と過ごしたいニーズがあることも見えてきたそう。今後も調査を継続しながら、家族や友人と参加できるイベント企画を考えたり、収益源の検討や、空き店舗情報の収集も進めていく予定です。
まずは、今できることからやってみる。そして、実践でアイデアをブラッシュアップし、カタチにしていく。打ち上げ花火のように大きなイベントだけを行うのではなく、中長期的なビジョンを立てた上で、“今必要なこと”を着実に実践したチームが多かったのも、今回のゼミの特徴でした。これから、それぞれの夢を一つひとつ前に進めていくのが楽しみです。
次回のまちのインキュベーションゼミの開催が決定しましたら、リンジンでお知らせします。関心のある方はぜひチェックしてみてください!