いつかは自分のお店を持ちたい。しかし、何から始めればいいのかわからないし、もし仮にお店ができたとしても、お客さんが来てくれるのだろうか。そんな悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。建築家としてお店や家、公共施設などを設計されている山道さんは、どうすれば人が場に集まり、その場をどう使うのかを考えながら、定石にとらわれない新しい空間をデザインされています。
北池「山道さんは、場づくりや店づくりをするにあたり、“成熟社会”というキーワードを使われますね。成熟社会における場づくりは、それまでの社会における場づくりと何が違ってくるのでしょうか」
山道「お店というのは“売る”という機能が最も重要なので、従来は、その機能だけを意識して設計するのでよかったように思います。しかし、モノが溢れているこれからの時代において、お店が単にモノを売るだけの場所となってしまうと、おもしろくないし飽きられてしまう。そんな社会になってきているように感じます。たとえば、売り場のそばに、目的がなくても入れるような開かれた場所を取り入れることで、直接モノを買いに来る人だけでなく客層が広がり、結果として、売上アップにも繋がる。そんなケースは決して珍しくないです」
北池「直接売上に繋がらない空間というのは、一見すると無駄な空間に感じられるかもしれませんね。そういった場をあえて設けるというのは、お店をやる側からすると、勇気がいることなのかもしれません」
山道「もちろん、いいものを高く売ることはお店を継続するためには大切な考え方です。しかし、“まちに開かれた場所”としての機能を取り入れたいという要望が、世代を越えて増えているように思います。開かれた場というのは、無駄を作るというよりも、“全てを作りすぎない”という発想の方が近いかもしれません」
山道 「あとは、場をつくるとき、その物件だけに着目するのではなく、その物件がどういう環境にあるのか、たとえば、前の道や隣の建物など、まちのなかにいかに溶け込ませるかというのは大事な視点だと感じています」
北池 「山道さんに設計をお願いした武蔵境のシェアキッチン8K(ハチケー)でも、物件選びの段階から山道さんにお越しいただきました。そのような発想で設計していただいたのですか」
山道「はい。8Kは、非常に狭く7坪弱しかありません。もし、この狭い面積に、飲食店の全ての機能をもたせようとしたら、色々な所で無理が生じてきます。そこで私が着目したのは、物件横にある廊下です。ここをお客さんが留まるスペースとして活用させることで、あえて店内にはお客様が入るスペースをつくらず、思い切って全てをキッチンにすることができました。とてもメリハリのある設計ができたと思います」
山道 「他の事例では、旬八という青果店をつくったとき、物件のちょうど前がバス停になっていて、庇(ひさし)がかかっていました。この庇と店舗空間とをゆるやかにつなげることで、バスを待っている人が店内の野菜や焼き芋を買いにふらっと立ち寄る、といった行動につながりました。これから新しいお店を開こうと思われている方は、単に物件の広さや家賃だけを比較するのではなく、周辺の環境をいかに活用できるかという視点を持つと新しい可能性が広がりますよ」
後編は建築家が考えるこれからのはたらき方についてお聞きします。(加藤)
時代と共にシフトする空間設計
#1 まちと店に調和をもたらす建築
1986年東京都生まれ。2011年東京工業大学大学院修士課程修了。2011年~同大学大学院博士課程に在籍。2012年にはELEMENTAL(チリ)に勤務。2012~13年Tsukurubaチーフアーキテクトを経て、2013年ツバメアーキテクツ設立。現在、東京理科大学、関東学院大非常勤講師。代表作に「阿蘇草原情報館」「荻窪家族プロジェクト」「朝日新聞社メディアラボ」等。編著に「シェア空間の設計手法」
株式会社ツバメアーキテクツ
http://tbma.jp