出版社の社員としてはたらきながら、国立・ 谷保にシェアハウスコトナハウスを立ち上げ、運営しながら、ひとり出版社小鳥書房を設立した落合加依子さん。若干29歳、その独特のはたらきかたを聞きました。
地域に開かれた交流スペースを備えたシェアハウスコトナハウスは、JR 南武線の谷保駅そばの昔ながらの商店街、ダイヤ街商店街のアーケードの中にあります。
2015 年にこのシェアハウス立ち上げの中心を担ったのが、住人でもある落合加依子さんです。大学時代に塾で子どもに作文を教えた経験から、コトナハウスの構想が生まれ、その後あたためていたアイディアを地域の人たちに話しているなかで不動産オーナーと出会い、実現に至ったそうです。
「子どもたちの表現や学びの場にもなる、 地域の人が集うあたたかい場所をつくりたい」という落合さんの想いから始まったコトナハウス。運営はチャノマーさんと呼ぶ会員やほかの住人とともに行い、地域に開かれたリビングチャノマとして、 商店街でも少しずつ認知されています。
フリーの編集者で、出版社小鳥書房の代表でもある落合さんは、会社員としてはたらきながら、コトナハウスを立ち上げ、その後、個人で出版社を設立。小鳥書房は、商業ベースにのらない「たった一人のための本」をつくりたい、という想いから生まれた出版社。本の編集という激務をこなしながら、自分の個人的な想いを形にしてきた、そのバイタリティはどこからくるのでしょうか。
「その時々で、自分に出来ること、やりたい、と思ったことをやってきたという感じです」と淡々と語る様子に気負いは感じられません。シェアハウスも出版社の設立も、自分の中のやりたい、という想いが原動力。立場が会社員でもフリーでも関係なく、編集というしごとが大好きで、大変ではあっても乗り越えてきました。
シェアハウスと出版社の運営、本の編集のほかにも、まちづくりのプロジェクトに携わったり、地域冊子の編集、書店業なども手がける落合さん。どれにも共通するのは、人、暮らし、しごとを“つなげる”という点かもしれません。編集者としてはまだまだ、という自己評価ですが、「本と暮らしの編集者」という肩書きがぴったりきます。
本づくりも場づくりも、「みんながワクワクできる場所をつくりたい」という落合さんの想いが根っこになっています。大人も子どもも同じテーブルを囲んで楽しく過ごす。育った家庭が複雑だったことから、家族で過ごすそんな風景にずっと憧れをもっていました。「それが今のしごとにつながっているなら、自分にとって良かったのかも」と 笑顔で話してくれました。落合さんの想いに共感し動く人が多いのは、その深い願いが感じ取れるからかもしれません。
落合さんにとって、コトナハウスは自身の暮らしの場でもあり、運営を担うしごとの場でもありますが、「自分にとって、onとoffの区別はない」と言います。「編集もシェアハウスの運営も、“はたらく”という意識はなくて、自分にとっては一番楽しいことをしている感覚で。趣味でもあるし、暮らしでもあり、生き方でもあり、すべて溶け合っている(笑)」そうです。「暮らしとしごとを切り離さず、ごちゃまぜになった状態が自分に合っている」。独特のはたらきかたは、そんな感覚から生まれたようです。
「まだまだ未熟者だし、経済的にも大変だったりしますが、まわりに助けられながら何とかやってます」と話す落合さん。今後の展望は、「ダイヤ街商店街を拠点に、コミュニティからしごとを生み出し、人としごとが循環する仕組みをつくりたいんです」とのこと。
落合さんにとってはたらくとは、心からの想いにしたがって動いた結果の、自然な成りゆきと言えるかもしれません。その独自のスタンスから、将来どんな新しいプロジェクトが生まれるのか、楽しみです。(安田)
1988年名古屋市生まれ。自宅近くの日泰寺参道商店街に親しみながら育つ。大学卒業後、童話専門学校入学のため上京、編集者となる。 2015年、子どもの居場所と地域コミュニティの拠点を兼ねたシェアハウスコトナハウスをオープン。2016年小鳥書房を設立。
コトナハウス Facebookページ https://www.facebook.com/kotonahouse/
小鳥書房 Facebookページ https://www.facebook.com/kotorishobo/