そばではたらく
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“ビジネススキル”が非営利事業を支える

まだ食べられるのに、さまざまな理由で流通できない食品を、児童養護施設や困窮世帯などに無償で提供するフードバンク活動。各地のフードバンク団体を支援する、全国フードバンク推進協議会で事務局長を務める米山広明さんは、2016年の春、地元の山梨から東京に活動の拠点を移しました。

山梨にいるままじゃ、本気じゃない気がした

米山さんは2015年に協議会を立ち上げる以前から、「必ず上京する!」と決めていたそう。

「事務局のしごとは、フードバンク活動の普及に向けて行政機関や企業との交渉がウェイトを占めます。中央省庁や大手企業の本社は東京に集中していますから、やはり近くに拠点を構えたほうがいいと思っていました。それに東京のほうが、NPO団体やプロボノ(職務上の知識や経験、スキルを社会貢献に生かすこと)の方と協力しながらいろんなアクションを起こしやすい。山梨でも、日帰り出張で東京に来ることはできます。ただフードバンク活動を普及させたいという思いはあるのに山梨にとどまるというのは、ちぐはぐな感じがしたのです。本当にそう思うなら、東京に行かなくてはいけないと思いました」

地道な活動が実を結び、Jリーグとの連携も始まった。試合会場にテントを張り、フードドライブ(家庭で余っている食料を持ち寄り寄付すること)を実施。

シェアオフィスでしごとの広がりを感じる

米山さんは初めての東京生活の場として、東小金井を選びました。

「上京するとはいえ、都心に住むイメージが沸かなくて。ところが東京でのしごとの帰り、山梨に向かう電車から窓の外を眺めていた時に『あ、ここなら住める』と感じたのが東小金井でした。高い建物がなく視界が開けていて、程よく自然も残っている。地元の景色と似ていて、ホッとしました。気がつけば電車を降りて、駅前の不動産屋さんに足を運んでいました。」

東京に来た当初は、ひとり自宅でしごとをこなしていましたが、数か月後にはすぐ近くのワークスペースと契約を結びます。現在はもうひとりの事務局スタッフと、肩を並べる毎日です。シェアオフィスの利用は初めてでしたが、メリットも多いと米山さんは感じています。

シェアオフィスでのひとこま。できあがったばかりのパンフレットを、スタッフと確認。

「ひとつは打ち合わせ場所の確保ですね。取引先との相談も多いので、落ち着いて話せる場所があるのはすごく助かります。それから、いろんなおしごとをされている方と出会えること。先日、協議会のパンフレットを新しくつくったのですが、そのデザインを入居者の方にお願いしました。すぐ近くにいらっしゃるので相談しやすく、おかげで納得のいくものができあがりました。そしてはたらき方にメリハリが生まれました。契約しているシェアオフィスは開いている時間が決まっているので、その間できるだけしごとに集中しています。まあ、自宅に持ち帰ってしまうことも多いのですが(笑)。それでも24時間際限なくといったはたらき方ではなくなったので、一人でしごとをしていた時とは違いますね」

困った人を助ける力になるビジネススキル

今では事務局としてデスクワークをこなす米山さんですが、過去に会社勤めをしていた経験はありません。ビジネススキルは外部研修を受けたり、トライ&エラーを繰り返したりしながら身につけてきました。米山さんは、非営利団体こそビジネススキルを活かすことが重要だといいます。

課題解決につながるのであれば、有益なものは取り入れていくべきだと米山さん。

「フードバンク団体もそうですが、NPOではたらく人の中には“ビジネススキル”と聞いただけでお金儲けなど、負の印象を抱く人が少なくありません。しかしスキルを営利の場で使っているからそう見えるだけで、スキル自体は成果を出すための最も合理的な手法だと思います。資金調達や組織運営など、私たちのような非営利活動を支える重要な要素となるはずです。スキルにより、少ない労力でより大きな成果を得られるのなら、それは貧困に苦しむ多くの人を救うことになる。実際に企業に勤めるプロボノの方と一緒にしごとをすると、参考になることがたくさんありますから。だからマネジメントやマーケティング、セールススキルも含めて、ビジネススキルはNPOでも積極的に取り入れるべきだと感じます」

研修会のようす。日ごろの活動に役立つスキルに、興味津々の参加者たち。

ビジネススキルの提供は、多くのフードバンク団体が抱える運営上の悩みも解消につながるかもしれない。協議会で広報や会議運営の研修を企画するのも、そうした思いから生まれていると、米山さんは話します。

協議会発足から丸2年が経ち、ますます活動の幅が広がりつつありますが、フードバンクの普及には、協議会そのものの安定化が必須だといいます。

「フードバンクが発展している海外の事例から予想すると、今後日本国内にも200、300のフードバンク団体ができてもおかしくないはず。より多くのフードバンク団体をサポートするには、まず私たち自身が強い組織となるための基盤整備が必要だと考えています」

ゆくゆくはフードバンク先進国のアメリカやヨーロッパと肩を並べ、日本人にとってフードバンクが当たり前の光景となればと、米山さん。
その思いが、多くの子どもたちを明るい未来へとつなげていきます。(たなべ)

プロフィール

米山広明

全国フードバンク推進協議会 事務局長
1983年山梨県生まれ。愛媛大学卒業後、地元の山梨に帰郷。2008年のフードバンク山梨設立時よりフードバンク活動に携わる。フードバンク活動全般、組織基盤強化事業、困窮世帯への生活相談、農作業を通じた自立支援等、新規事業の立ち上げや、自治体への事業提案を担当。2015年より現職、新設フードバンク団体の立ち上げ支援や政策提言活動を行っている。

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