東小金井の、看板のない菓子店

2021.03.11
東小金井の、看板のない菓子店

東小金井駅前商店街の一角に店舗を構えるsofarは、素材の味を活かした見た目も味わいも優しいお菓子を扱うお店。開業当初はシェアキッチンを利用し製造・販売を行っていましたが、2020年11月には念願の実店舗をオープンさせました。実は店主の鈴木飛鳥さんは、もともと畑違いの業種で活躍していたそう。しかし、結婚・妊娠・出産経験を経てはたらき方を見直すことで、sofarを立ち上げたのだと語ります。今回の取材では、そんなsofarを開業した経緯や実店舗オープンまでのエピソード、今後の展望などについてお話を伺いました。

異業種から転身。自由なはたらき方に憧れて

“見た目も味わいも優しいお菓子”を販売しているsofarは、2020年11月に東小金井駅前商店街の一画にてオープンしたばかり。開業した当初の2019年には東小金井駅の高架下にあるシェアキッチンにて製造・販売を行っていましたが、念願叶って実店舗をオープンするに至りました。しかし、店主である鈴木さんはsofarを開業する前は全く畑違いのしごとをしていたのだとか。

学生時代から海外文化に興味があったため、大学卒業後は輸出入の代行会社に就職して順調にキャリアを築き、課長職まで昇進した鈴木さん。ところが、激務に追われる中、結婚・妊娠・出産経験を経て「本当にこのままの生活でいいのかな」と考えるようになったのだと言います。

sofarの店主である鈴木飛鳥さん。現在は二人の子どもの育児と両立して、お菓子の製造・販売を行っている。
sofarの店主である鈴木飛鳥さん。現在は二人の子どもの育児と両立して、お菓子の製造・販売を行っている。

「しごとは楽しかったし、やりがいも感じていたんですけど、妊娠・出産を経てはたらき方について思い悩むようになりました。夫がフリーランスのカメラマンとして活動していることもあり、私もフレキシブルにはたらいた方が育児などにも柔軟に時間を割けるし、うちの家庭には合っているかなと思ったんです」

こうして転職を決意した鈴木さん。しかし、その時点では特に具体的な次のビジョンはなく、 「今のしごとの分野ではない、何か別の資格も取りたい」と漠然と考えていたそう。そんなとき、本屋にてパンシェルジュ検定の教本に目が留まったのだと言います。

学んでいく内に、パン作りの楽しさを知るだけでなく、小さい頃から好きだったお菓子作りへの想いが再熱。「お菓子を販売・製造するお店を作りたい!」と考えるようになりました。

店頭では旬の野菜やフルーツを使ったお菓子やドリンクなどを販売している。
店頭では旬の野菜やフルーツを使ったお菓子やドリンクなどを販売している。
温もり溢れるオシャレな内装の店内。内装は旦那さんと一緒に創り上げたそう。
温もり溢れるオシャレな内装の店内。内装は旦那さんと一緒に創り上げたそう。

退職後、東小金井のシェアキッチンにて開業

鈴木さんは2019年5月に長年勤めてきた輸出入の代行会社を退社。その後お菓子教室に通ってお菓子作りについて学んだ後、sofarを開業しました。
開業場所に選んだのは、JR中央線が通る東小金井駅の高架下にあるシェア施設MA-TO。複数の商店や飲食店が軒を連ねているだけでなく、製造・販売を行なえるシェアキッチンも完備しているので、お菓子作りを行うのにピッタリだと思ったと振り返ります。

「もともと夫がMA-TOのお隣にあるシェアオフィスを利用していたこともあり、施設の存在は知っていました。開業しようと思ったのは、シェアキッチンの利用者を募集していると知ったのがキッカケです。退職を決意していたときにちょうど募集がかかったので、すごく良いタイミングでしたね(笑)」

こうして2019年8月にsofarを開業。「近所の方だけでなく、オープンからしばらくしたら口コミをキッカケに来て下さるお客様も増えて嬉しかったです」と鈴木さん。初めて自分で製造したお菓子を販売し、とてもやりがいを感じたと振り返ります。

オリジナル性を出すために、開業時に“見た目も味わいも優しいお菓子”を取り扱うことを決めたそう。
オリジナル性を出すために、開業時に“見た目も味わいも優しいお菓子”を取り扱うことを決めたそう。

コロナ禍の中、実店舗の物件探しを開始

開業以降、予想していなかった大きな出来事が続きます。開業直前、実は二人目のお子さんを妊娠していることが判明していた鈴木さん。2020年1月から産休・育休期間に入り、「4月末にはシェアキッチンでの営業を再開させたい」と考えていました。

ところが、2020年の年明けから世界中にて新型コロナウイルスが流行。外出制限や飲食店の時短営業が推奨されるなど世の中の情勢が一気に変化し、4月末に営業を再開させるのは難しくなりました。
思わぬ事態により予定がガラッと崩れてしまった鈴木さんですが、予定外の事態が起こったからこそ実店舗の立ち上げを志すようにもなったと振り返ります。

「産休に入る前、MA-TOにて営業を行っていたのは週1~2日程度だったので、空いている時間はカフェでアルバイトをしていたんです。でも、緊急事態宣言の発令によりカフェが休業になったのをキッカケに、誰かに雇ってもらって収入を得るよりは自分で収入が得られるようになりたいと強く思うようになりました。以前から、ゆくゆくは実店舗を立ち上げたいという想いはありましたが、コロナの影響で決断した部分もありますね」

sofarのコンセプトは“Find your new favorite!”。「新しいお気に入りを見つけられる場所になれたら」と語る。
sofarのコンセプトは“Find your new favorite!”。「新しいお気に入りを見つけられる場所になれたら」と語る。

実店舗の立ち上げに尽力するようになった鈴木さんがまず始めたのは、物件探し。小さなお子さんが二人いるため、物件探しの際には “通いやすさ”にこだわり、小金井にある自宅から近く、通っている保育園にもいざというときにすぐに迎えに行ける場所を探していたと言います。

また、“自分に立場の近いベビーカーを押すご家族や車いすに乗った方などどんなかたにも気軽に訪れて頂けるように”という考えのもと、1階であることと入口が広く設けられていることも物件探しのポイントになったのだとか。

最終的に実店舗の場所として選んだのは、東小金井駅南口のスグそばにある建物。訪れるお客様が気兼ねなく入店できるよう、店内の段差をなくすなど改装を行い、2020年11月に晴れて実店舗をオープンしました。

店内にはお茶やジャム、陶器などの手仕事が生み出す商品も並ぶ。学生時代に環境問題のボランティア活動を行った経験から、マイバッグ割引などエコ活動にも取り組みはじめた。
店内にはお茶やジャム、陶器などの手仕事が生み出す商品も並ぶ。学生時代に環境問題のボランティア活動を行った経験から、マイバッグ割引などエコ活動にも取り組みはじめた。

最終的には“文化発信ができる場所”に

現在の営業日は水曜・金曜と、月1回の土曜出店のみ。まだお子さんが小さいこともあり、子育てに専念するためにあえて営業日を制限しているのだと言います。
そのため、いまは営業時間外は仕込みを行ったり、フリーカメラマンとして活動している旦那さんが撮影や打合せの場所として使ったりしているそうですが、今後は別の業態の方にも店舗を貸し出して利用できるスペースにしたいと考えているのだそう。

「sofarという店名の由来は“sofa(家具のソファー)”と、“so far(今のところ)”という二つの言葉。ソファーの置いてあるようなゆったりと寛げる空間にしたいという想いと、今後様々な利用スタイルを取り入れて変わっていける場所を目指したいという想いを掛け合わせて名付けたんです」

イラストレーター・野々なずなさんが描いたsofar定番お菓子のイラスト。2021年2月には原画展も開催した。
イラストレーター・野々なずなさんが描いたsofar定番お菓子のイラスト。2021年2月には原画展も開催した。

「夫とも話しているんですが、最終的には子どもたちのアイデンティティを育めるような文化発信ができる場所になれたらいいなって。枠に問わられず様々な業種の方に利用してもらうことで職業を知ってもらえるキッカケになれたら嬉しいです。色んな人との繋がりを大切にしながら、一緒にお店を盛り上げていけたらいいなと思っています」

一般的に、お店には看板が掲げられているものですが、sofarにはあえてありません。“様々な業種の方が自由に使えるスペースになるように”という想いを込めて、店頭には今後の予定が記載されたスケジュールボックスのみを設置しているのだと言います。

鈴木さんの自宅から徒歩10~15分圏内 にあるsofar。旦那さんが撮影や打合せ場所として使うこともあるそう。
鈴木さんの自宅から徒歩10~15分圏内 にあるsofar。旦那さんが撮影や打合せ場所として使うこともあるそう。

新型コロナウイルスによる営業自粛要請など様々な実店舗の立ち上げから様々な苦労を重ねてきた鈴木さんですが、オープンから数ヵ月経ったいまでは「開業できて本当によかったです!」と嬉しそうに語ります。

「お客様にお菓子とお茶のマリアージュをこちらからアドバイスすることもあれば、お客様から『こんな組み合わせもおいしかったよ』と教えてもらうこともあったり。お菓子をただ販売するのではなく、お店がお客様との交流の場にもなっているのがとても嬉しいです」

地域の方とコミュニケーションを取れるように、店頭にはコメントを書いた黒板を設置。
地域の方とコミュニケーションを取れるように、店頭にはコメントを書いた黒板を設置。

自分の可能性を自分で決めつけず、柔軟に変わり続けること――。
それはきっと、多様化が進むこれからの時代より大切になってくることであり、自分らしく生きる上で重要なポイントとなることでしょう。
鈴木さんが畑の違う前職から転職してsofarを立ち上げたように、いまはまだ明確なビジョンがなくても、自分で自分の可能性を決めず思い切って新しいはたらき方や業種に挑戦してみれば、おのずと自分がやりたかったことが見えてきて理想の生活が叶えられているかもしれません。(三島)

店頭に置かれた赤い椅子は、椅子を通して“まち”と“ひと”をつなぐ赤いい椅子プロジェクトのもの。道ゆく子どもたちが時折腰掛けていくのだとか。
店頭に置かれた赤い椅子は、椅子を通して“まち”と“ひと”をつなぐ赤いい椅子プロジェクトのもの。道ゆく子どもたちが時折腰掛けていくのだとか。

プロフィール

鈴木飛鳥

sofarの店主。一度は一般企業に就職するものの2019年に退職し、東小金井駅近くの高架下にあるシェア施設MA-TOのシェアキッチンにてお菓子の製造・販売を開始した。第二子出産のため2020年1月に産休に突入。新型コロナウイルスの影響により営業再開は遅れたものの、苦難を乗り越えて2020年11月には東小金井駅前商店街の一画に念願の実店舗をオープンした。

sofar
https://www.instagram.com/sofar_toridori/
https://sofar190802.thebase.in/ 

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