ワークゼミ&コンテスト「NEW WORKING」連動企画、「武蔵村山の実践者たち」の第2弾は、武蔵村山市の江戸街道沿いに2024年1月にオープンした「あいちゃんの台所」。飲食店で働きいつか自分のお店を開きたかったという松田亜衣さんを店主に、娘の星茄さん、瑞月さんと協力し合ってお店を営んでいます。生まれも育ちも武蔵村山市で、「地元で愛されるお店にしたい」と話す3人に、お店づくりのストーリーをうかがいました。
武蔵村山市でタコライス、ビビンバ、オムライスなど、色鮮やかでスタイリッシュなお弁当を販売している「あいちゃんの台所」。店主は、ラーメン屋をはじめ、飲食店で長年経験を積んできた松田亜衣さん。生まれ育った実家のガス屋を改装して、自分のお店をオープンしました。亜衣さんと一緒にお店を営むのは、長女の星茄さんと次女の瑞月さん。母と娘でお店を始めるまで、どんな経緯があったのでしょうか。
松田亜衣さん(以下、亜衣) 「私のおじいちゃんがここでガスの販売店をしてたんですが、3年前に急に倒れて亡くなってしまって。店舗をそのまま残しておいてももったいないし、ここで何かやりたいと思いました。もともと私はいつか自分の飲食店を開きたいなと思っていて、調理師の免許を取ったり創業塾で学んだりと、水面下で少しずつ準備をしていたんで、“今からやるしかない”と」
「自分のお店をやりたい」という亜衣さんの強い思いは家族全員が知っていたから、反対は全くなかったとか。星茄さんと瑞月さんも、一緒にお店を開くことを決意しました。
松田星茄さん(以下、星茄) 「お母さんがお店を始めるなら一緒にやろうかなと、新卒から7年続けた事務の仕事を辞めました。仕事にやりがいは感じていたのですが、お店を始めれば家のそばで働けるし、接客の仕事は今までしたことがなかったのでやってみたいなって」
木村瑞月さん(以下、瑞月) 「私はもともとトランペット吹きだったんですが、コロナで難しくなり飲食店などで働いていました。母からお店をやりたいと聞いて、『一緒にやる!』って。結婚して赤ちゃんが産まれるタイミングだったので、一緒に働けば、産まれてからも家族で赤ちゃんの見守りができるねと」
ガス屋からお弁当屋へ。店舗の改修は、亜衣さんのお父さんや旦那さんまで巻き込み、家族総動員でDIY。大工のお父さんを中心に、置いてあった事務机などを全部出して古い壁や壁紙を全て外し、新しい壁やキッチンを設置していきました。
亜衣 「資金があまりなかったんで、なるべく自分たちでやろうと。父が『棚があると便利だろう?』と余った材料を使って棚を作ってくれたり、自分たちで漆喰の色を選んでホームセンターで買ってきて塗ったり、手作り感満載(笑) 設計は、友人に大まかな図面を書いてもらって、相談しながら調整していきました。設備関係も、知り合いの電気屋さんや水道屋さんに手伝ってもらって」
多くの人の協力を得てお店づくりを進めながら、お弁当のメニューを3人で検討。近くのお弁当屋さんに足を運んで学びながら、「こんなの出したら面白いよね」「他にこれがないから出したい」など話し合いを重ね、値段やメニューを固めていったそうです。
瑞月 「お母さんのタコライスは家族みんな大好きだから出そうとか。赤ちゃんを子守してもらいながらみんなで話していました」
星茄 「周りのいろんな人にいろんなことを教えてもらったよね。わからないことは、地元の人をどんどん頼って聞いて教えてもらったのが、すごく強みになってる気がする。試作でお弁当を作るのも楽しみでしたね。オムライスとか色々なお弁当をみんなで一緒に作って食べて」
知り合いのイベントなどでお弁当の試作品を提供しながら、メニューをブラッシュアップ。その都度、お客様の反応や、食材の分量、作りやすさ、材料費などを検討し、オープンに向けて準備をしていきました。
亜衣さんは、数あるフードビジネスの選択肢の中で、なぜ商品をお弁当にしたのでしょう。根っこにあるのは、十年以上、亜衣さんがずっと作ってきた子どもたちへのお弁当でした。
亜衣 「ヴィーガンや完全なオーガニックとまではいかないけれど、子どもたちが小学生の頃からいつも体にいいものを食べてほしいと、冷凍食品や出来合いのものなどは入れないで手作りしてきて。本当にそのせいなのか根拠はないんですが(笑)、子どもたちがとにかく健康なんです。あまり熱を出さないし、感染症もほとんどかかることがなくて、体がすごく強い。だから、外国産の安いものや大量生産のものではなく、地元の知っている生産者さんの食材を使った、安心して買える体に優しいお弁当屋を始めようと。お母さんの愛みたいな感じ(笑)」
星茄 「お母さんのお弁当を周りの友達が『いいな!』ってうらやましがってくれて。高校の時は友達の分も作って持っていったこともあったね(笑) キャラ弁も作ってくれて」
瑞月 「当時は口では言えなかったけど、お弁当は美味しかったですね。母はその頃にお弁当の電子書籍を何回か出したこともあったんです」
当時、亜衣さんは日記を書くように、SNSに毎日作ったお弁当をアップしていたとか。そこから周りにも「亜衣ちゃん=お弁当」のイメージがつき、協力体制ができていったと言います。
野菜や卵、お肉などお弁当の材料は、「あらはたやさい学校」(農園)、「金井畜産」など、地元の顔が見える生産者から直接仕入れています。学校のPTA関係など、地元で生活する中で自然と築いてきた人とのつながりが、開業を支えていました。お店を開いてから枝を伸ばした新たなご縁もあったとか。
亜衣 「西洋野菜など珍しい野菜を扱うベースサイドファームさんが、『うちの野菜を使ってあいちゃんの台所にオードブルを作ってもらいたい』とSNSにあげてくれていて。そこから連絡を取って畑を見させていただきました。今もいろいろな野菜を届けてくれています」
オープン直前には数千枚のチラシをポスティングして、SNSでもアピール。そして、迎えたオープン当日は、亜衣さんの友人も応援に来て、朝から4人体制でスタートしました。しかし、想像以上の大反響に戸惑ったそうです。
瑞月 「オープンの日は平日だったのにたくさんの方が来てくれて。外までずっと行列ができてて、体感1時間くらいで1日が終わりました(笑) 並べたお弁当も一瞬でなくなって、ご飯を炊くのも間に合わなくなったよね」
星茄 「そうそう、お客さんがいなくなる瞬間が全くなかった。お弁当を並べて選んでもらうのを想定してたんですが、なくなっちゃったんで注文してもらうスタイルになるじゃないですか。注文の順番もぐちゃぐちゃになって、どこでオーダーをもらってどこで待っててもらうかとか、オペレーション的にもどうしたらいいんだろうと、キャパオーバー(笑) 今思えば効率が悪かったです」
亜衣 「初日は本当に“嵐”みたいでした。材料も無くなっちゃって、農家さんに『何か野菜を見繕って持ってきてくれませんか』ってお願いして、持ってきていただいたもので作ったり。回しきれない自分の力不足を実感して、反省ばかりでしたね」
こうして、初日から約140食のお弁当を販売。オープンから数日間は怒涛の毎日が続きました。最初は全部亜衣さんが作っていましたが、次第に3人の役割分担が決まってくると、スムーズに対応できるようになっていったと言います。メニューを考えるのが亜衣さん、盛り付けは瑞月さん、調理のベースは星茄さん。それぞれの得意を生かしながら、お弁当を作っています。
オープンして半年以上が過ぎた今。「周知してもらう時期という意味では順調」と、手応えを感じている亜衣さん。星茄さんと瑞月さんのアドバイスで投稿したSNSの効果で、ロケ弁やオードブルまでお客様が広がっているそうです。
瑞月 「インスタのハッシュタグで“#ロケ弁”って入れたら、都内の撮影会社さんからの注文がバーっと増えました。一度に80食ぐらいの注文をいただいたこともあります。今度は“#オードブル”と入れたら、立て続けにご注文いただいてオードブル祭が(笑) 誕生日のお祝いやおもてなしなどにご利用いただいています」
SNSだけでなく、道路沿いの信号前という立地が呼ぶ、新しいお客様も。車で信号待ちをしている時に、お店があることに気付き、仕事の帰りに寄ってお弁当を買ってくれるトラックやバスの運転手さんも多いそうです。
オープンから走り続けてきた3人。お店を営むやりがいや大変さ、働き方の変化など、それぞれが今感じているのはどんなことでしょう。
星茄 「事務の仕事ではあまり対面でのコミュニケーションはしていませんでしたが、今はお客さんと顔を合わせてお話しできるのもいいですね。見た目的に“今風のお弁当”ってよく言われますけど、気に入ってまとめて注文してくださる80歳過ぎのおじいちゃんもいて。年齢に関係なく、『おいしかった!』とまた来てくれると、美味しさや安心というところで伝わったんだと嬉しいです」
亜衣 「雇われてないことの楽さもあるし、その逆で、自分のお店としての責任感もあります。でも、楽しいこと・好きなことをしてるっていうのがベースなので、充実してるのかな。何よりも、『ここの弁当なら安心して食べられる』と言ってくれるお客様に何人も出会えたのがとても嬉しいです。これは3人とも同じ気持ちだよね。お店の悪い口コミを見たときなどは落ち込むこともありますが、そんな時は起業家の先輩に話をして、『全然気にすることない』って励まされてます」
瑞月 「家族の中で自由に働けるのは自営の良さですよね。働く人の体も大事なんで、大量の注文が入ってハードに働いた後は、お店を閉めて休むこともあります。あと、子どもの体調がちょっとでも悪いと、『いいよー、休んで』と言ってくれる。1歳の子どもがひっついていたら普通は仕事できないけど、実家でおばあちゃんやひいおばあちゃんもいて見守りしてくれるので安心です」
今の仕事が好きで、休みの日もメニューなどお店のことを考えているという亜衣さん。店主として、これからどんなお店にしていきたいと思っているのでしょう。
亜衣 「まだ構想段階ですが、夏休みは近所の子どもたちを集めて自分のお弁当を作る体験の場を開きたいですね。中学生の職場体験としても使ってもらったり。そうやってずっと地元とつながった位置にいれたらいいなと。あとは『今日はご飯作るの面倒くさいからあいちゃんのお弁当にしよっか』と、息抜きの場として使ってもらえたら。こんなお弁当屋に共感してくれる人が増えたら嬉しいです」
人と人とのつながりを大切に、母と娘の3人で始めた「あいちゃんの台所」。家族や地元への愛情が、地域に広がっています。
2019年 亜衣さん、いつかお店を開きたいと考え、創業塾に通う
2021年 実家のガス屋が閉店し、弁当屋として店舗を活かすことに
2022年 亜衣さん・星茄さん・瑞月さんが仕事を辞め、開業準備を本格化。瑞月さんが結婚し出産
2023年 DIYで店舗の改修を進める。年末にはプレオープンも
2024年 「あいちゃんの台所」がグランドオープン
あいちゃんの台所の店主。ラーメン店など、長年飲食店で勤務した後、あいちゃんの台所をオープン。たましんや武蔵村山市の創業塾に通った経験も。
亜衣さんの長女。商業高校を卒業後、花屋で事務員に。あいちゃんの台所では経理も担当。
亜衣さんの次女。1歳の子どもの母。高校卒業後、飲食店などで接客経験を積む。あいちゃんの台所では盛り付けなどを担当。
「NEW WORKING」は、武蔵村山市の魅力創出を目指すワークゼミ&コンテスト。「まちにあったらいいな」というアイデアを募り、地域に根差した新しい事業へと成長を後押しします。あなたの小さなアイデアを、まちで大きく育てましょう。
武蔵村山市内で事業アイデアをお持ちの方
・創業前および創業して間もない方(概ね5年以内)
・新規事業の立ち上げを計画している方
・申請時点で15歳以上の方
※団体、個人、法人は問いません
※居住地、本店所在地は問いません
※業種業態は問いません(ただし、公序良俗に反せず、社会通念上適切と認められるものに限ります)
グランプリ 1名 30万円
準グランプリ 2名 10万円
エントリー
10月7日(月) 23時59分締切
「まちにあったらいいな」と思うお店やサービスなど、自由な発想で事業アイデアを募集します。
ワークゼミ10月12日(土)14:00-17:30 @緑が丘ふれあいセンター
エントリーいただいた方を対象にワークゼミを開催。アドバイスを受けながらアイデアをブラッシュアップします。
1次審査書類の提出
11月11日(月)12:00締切
各自が事業アイデアを書類にまとめて提出。いよいよファイナリストを選出します。
最終審査会&グランプリ発表
12月15日(日)14:00-18:00 @TOKYO創業ステーションTAMA イベントスペース
選ばれたファイナリストが、プレゼンテーションを行い、グランプリ・準グランプリを決定します。
武蔵村山市
株式会社タウンキッチン