“都市農業”という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。大規模ではなくとも、市街地から少し離れた場所にある畑や田んぼ。こうした農地が、2015年の法改正(都市農業振興基本法)以降、観光や福祉、教育などといった多様な分野で注目を集めています。
昨年12月8日(土)、日野市にある明星大学で、“都市とデザインと農業”をテーマとしたデザインセッション多摩 2018(通称DeSTデスト)が丸一日にわたって開催されました。
2017年度からはじまったDeSTは、“自分たちの暮らしの目的地を探る”をテーマに掲げ、会場に集まった人が繋がり、共に考え、地域にデザインの力を活かしたプロジェクトを増やしていくために始まったプラットフォームです。今回は、農地の活用に関心を持つ、農家・流通業者・デザイナー・クリエイター・企業・デベロッパー・行政・これから地域での活動を始めていきたい人などが集まりました。
戦後、郊外住宅地として整備が進んだ多摩地域では、畑や田んぼが潰され、次々と住宅が建設されました。まちの設計図とも言える都市計画法では、“市街地区域内の農地は宅地化すべきもの”、つまり、郊外の農地はいずれ消滅するはずのものでした。
転機となったのは2015年の法改正。市街地区域内の農地とその周辺で営まれる農業は、農作物の供給だけでなく、体験や教育、防災、緑地の提供などの多面的な機能を担うものとして推進されはじめています。
そんな状況を踏まえて開催された今回のDeST。プログラムは、6名のパネラーを迎え都市農業の変遷と事例を知る1部のトークセッションと、地域で活動するクリエイターとともにプロジェクトを考えるワークセッションの2部構成です。農地を活用して何ができるか、あるいは自分がしたいことに農地を活用できるかといった視点でヒントを求める人が集まった会場に向け、ゲストそれぞれの活動をもとに実体験やアドバイスが紹介されました。
小金井を中心に農地を持ち、JA 東京中央会特別顧問も務める高橋金一さんは、三代続く農家の立場から、農地のこれからを見据えています。
農地を活用した活動が数多く始まる中で、“第3次農地解放”とでも言うべきものが始まっていることを高橋さんは感じられていると言います。これまでは農作物を育てる場所として、あるいは単なる空き地と見なされてきた農地を、福祉や教育など、これからの日本の社会に活かせるかどうかが問われている現在の状況。自身が農地を所有している高橋さんは、歴史の変遷の中でも農地として残してきたことを良かったと振り返りながら、現場の自分たちがどのように活用に関わっていくかを大きな課題であると捉えられています。
国立市のコミュニティ農園くにたち はたけんぼなどを運営する株式会社農天気の小野淳さんは、畑のすぐそばに住宅がある郊外ならば、暮らしまで一緒に考えることで、農の力で多摩は世界一住みたいまちになるのではないか、と感じていると言います。多摩地域の農業を経済として回していくきっかけとして、宿泊型のアグリツーリズムにも関心を持たれています。
農地活用を企画する上で小野さんが重要視しているのは、“なるべく遠くから人を呼ぶ”ということ。距離だけでなく、心理的な距離も大切だと言います。気づいたら畑にたどり着いていた、という導線を作り、遠くにいる人にリーチして心を掴むことができれば、そこでお金を生み出し経済として回すことが可能になると考えられています。一方で、それだけに捉われると地域がないがしろになってしまったり、蓄積されてきた農文化が失われてしまう可能性もあるため、並行してその点も意識されていると言います。
地域にどんな場所があれば、自分たちの暮らしがもっと面白く豊かになるか、住まいの近くにしごとを生み出すことができるか、そんな視点で農地を見ると、都市農業の可能性は大きく広がります。
それぞれ立場の異なる6名のパネラーが、自身のプロジェクトを進めるにあたって共通して心がけられていたのは、“相手を知ること”でした。農業の変遷を知る、土地を借りたい農家の歴史や人柄を知る、後継者の困りごとを知る、どんなスキルを持った人が地域にいるのか知る。頭の中で構想を続けるだけではなく、地域に出て農地に行き人と話すことが、思い描く農地活用を実現するための近道であると感じます。
暮らしの現場である郊外だからこそ、地域に点在する農地を食、福祉、教育、防災などに結びつけていくことは私たちの日々に直結します。これからの多摩地域で、都市農業がどのように展開していくのか期待が膨らみます。
デザインセッション多摩2018 特設サイト
https://meide.jp/dest2018/
明星大学デザイン学部
https://meide.jp/