住みたいまちは自分たちでつくれ

2017.05.18
住みたいまちは自分たちでつくれ

郊外での住まい、暮らし、はたらき方を考える企画展小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ(3月16~28日、新宿・リビングデザインセンターOZONEで開催)との連動企画として開催されたシンポジウム郊外の未来を考える 住みたい・働きたい街は自分で作ろう!。
4人のパネリストたちは、郊外で暮らすこと、また郊外ではたらくことについて、それぞれの立場から意見を交わしました。これまでの内容をもとに、これからの郊外の在り方について話し合いました。

仲間をつくり、急がずに

ーここからは、郊外の暮らしをより豊かにするにはどうすればよいかについてお聞きしたいです。妄想も含めて、ぜひ。

小池「地域のママさんや子どもたちが元気に遊べる、喜べる場所の必要性を感じます。都心でもいろんなイベントが見られますが、郊外なら神社や公園などで手づくり感のあるものができると思いますね」

ー小池さんのように、パブリックスペースを使って何かやりたいと考える住民は多いと思いますが、何から始めたらよいのでしょうか?

保井「平たく言えば“仲間をつくる”ということだと思います。興味のある場に出向いてみて、ちょっと話しかけてみることからスタートすれば、開けてくるような気がします。まちは仲間がいるとおもしろくなります。今も、多摩川でイベントやりたいという団体のお手伝いをしているのですが、みなさん子どもたちを連れて打ち合わせに来るんです。またちょっとしたきっかけで、仕事の仲間が暮らしの仲間となり、暮らしの仲間がしごとにつながることも大いにありうるのが、郊外の強みではないでしょうか」

それぞれの立場の観点から、郊外で住むこと、はたらくことについて考えを述べたパネリストたち(写真右側テーブルの左から、小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)
それぞれの立場の観点から、郊外で住むこと、はたらくことについて考えを述べたパネリストたち(写真右側テーブルの左から、小泉誠さん、小池ともこさん、相羽健太郎さん、保井美樹さん)

相羽「日々思うのですが、私たちは自己表現や自己実現を求めていて、また今はそれができる時代なんだと。そう考えると、“住みたい街ランキング”に載るようなまちに住むことが自己表現にはつながらないと思うんですよね。例えば恵比寿など、1億円以上もするようなまちに本当に住みたいの?っていう…。それよりも、住むことのできるまちを“住みたいまち”にするほうが現実的だし、実際にそうした動きをする人も増えている気がします。その点、郊外は自分が“いい”と思ったことを表現できることが最大の魅力だと思います」

小泉「地域での活動を進めるには持続可能性を高めるうえで、“急がない”ということも大切な気がしますね。相羽さんと東村山につむじという文化交流施設をつくるプロジェクトに参画しましたが、国立に住む私は“よそ者”なわけで。じわじわと関係性を築いたことで、持続可能性の高いプロジェクトになったと思います」

相羽建設の拠点つむじにある無人販売所。建物とともに小泉さんがデザインを手がけた。
相羽建設の拠点つむじにある無人販売所。建物とともに小泉さんがデザインを手がけた。

当事者意識を持ってまちに関わる

ーあっという間にお時間が来てしまいました。では最後に、みなさんへひと言お願いします。

小泉「郊外に住んでみて、本当によい意味で、よい余白の使い方をできた30年だったと思いますね」

小池「郊外に住むことで、自分の工房を持つことができました。先ほど小泉さんからも『急がない』という話がありましたが、焦らずマイペースに続けることが、自分らしさかなと思います。それを胸に刻みつつ、地域に根づく工房に育てていきたいです」

シンポジウム前半に、近代都市計画と日本の郊外の性質、今後の展開などについて解説した保井美樹先生。パネルディスカッションでも、広い視点で郊外を考えるきっかけになる意見が目立った。
シンポジウム前半に、近代都市計画と日本の郊外の性質、今後の展開などについて解説した保井美樹先生。パネルディスカッションでも、広い視点で郊外を考えるきっかけになる意見が目立った。

相羽「“ベッドタウン”という言葉は、『自分は寝るだけに帰っているから』というような傍観者的な響きに聞こえるんですよね。郊外では、自分が当事者になれるかが大事であり、自立型コミュニティの形成が重要なカギを握ると思います。仕事として、またひとりの市民として、当事者意識を持って自立型コミュニティをつくり上げていきたいです」

保井「郊外での暮らしを考えた時に、いろんな切り口があります。自治体でもいいですし、近くのお友達とピクニックするのでもいいでしょう。周りの環境をもっと見直して、価値ある場所に変えていくはたらきかけが重要だと思います。すてきな人が暮らしていて、みんなが自分たちでまちの在り方をデザインしていくようなまちづくりに、チャレンジしたいですね」

期間中は、企画展示「郊外で住みながら働く」が開催された。
期間中は、企画展示「郊外で住みながら働く」が開催された。

郊外での暮らしの実践者であるからこそ、背伸びのない、リアルな言葉で語ってくれた4人のパネリストたち。郊外に住む人が多く集まった来場者からは、大きな拍手が起こりました。(たなべ)

連載一覧

郊外はどこへ向かう
郊外のすゝめシンポジウム

#1 都会と郊外はどちらが住みやすい

#2 暮らしの選択肢を広げる“余白”

#3 日本型郊外ワークスタイルの予感

#4 住みたいまちは自分たちでつくれ

プロフィール

小泉誠

家具デザイナー。1960年東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に従事後、1990年Koizumi Studio設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年からデザインを伝える場としてこいずみ道具店を開店し、デザイン活動を再開、デザインの素出版。2005年ギャラリー間展覧会、と/to出版。2007年小泉誠展匣&函。2013年毎日デザイン賞。2015年わざわ座発起。2016年地味のあるデザイン出版。2016年日本クラフト展対象。
http://www.koizumi-studio.jp/

保井美樹

法政大学現代福祉学部教授。1969年福岡生まれ。NY大都市計画博士、工学博士(東京大学)。米Institute of Public Administration、世界銀行、東京市政調査会、東京大学等を経て、2004年より法政大学。エリアマネジメント、官民連携まちづくりを専門とし、研究の傍ら各地で実践の支援を行う。近著に最新エリアマネジメント(共著、学芸出版社、2015)。
http://yasuilab.ws.hosei.ac.jp/wp/?page_id=12

小池ともこ

そばの実カフェsoraオーナー。1964年東京生まれ、大学卒業後、会社勤務を経て結婚を機にマクロビオティックの食事を実践。マクロビ系の飲食店を経て、2015年実家をリフォームしたそばの実カフェ soraをオープン。蕎麦粉を使った菓子やパンを販売し、ワークショップそば粉の実験室を主宰。
http://ameblo.jp/sobanomicafe-sora/

相羽健太郎

相羽建設株式会社代表取締役。1973年東京生まれ。神奈川大学卒。一条工務店を経て1998年に相羽建設入社。建築家の故・永田昌民氏や伊礼智氏、家具デザイナーの小泉誠氏との協働をはじめ、建築業界や行政、地域との価値観に基づくつながりの中で“創発”が生まれるプロジェクトを多数進めている。東村山空き家対策協議委員。一般社団法人わざわ座理事。
http://aibaeco.co.jp/

小泉誠と仲間たちが考える郊外のすゝめ

http://kougainosusume.jp/

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