ワークゼミ&コンテスト「NEW WORKING」連動企画、福生・昭島の実践者たちの第3弾は、「LEF TOKYO(エルイーエフ トウキョウ)」の代表 横谷仁さん。福生市を拠点に、キャンピングトレーラーをお店にした移動販売の古着屋からスタートし、今はフードトラックまで手がけています。アパレル業界も飲食業界も未経験ながら、4年前に20代で事業を立ち上げた横谷さん。一体、どんな想いや経緯があったのでしょう。
アメリカンカルチャーが根付く、異国情緒あふれるまち、福生市。米軍横田基地の向かいにある国道16号線沿いには、アメリカンテイストなお店がズラリ。その並びに、トレーラーハウスを活かした古着屋とフードトラックがあります。ここを立ち上げたのは、福生市のお隣のあきる野市出身の横谷仁さん。そもそも、なぜお店を始めることになったのでしょう。自分で事業をやりたいという思いは、プロ野球選手になるという一つの目標を諦めた頃に沸々と出てきたそうです。
「高校まではプロ野球選手にならなければ野球をやる意味がないと、野球に打ち込んでいました。でも、周りにはすごい選手がいっぱいいて、自分の限界も分かってきて。それに、現実的にプロ野球選手は10年ぐらいで引退することが多い。何か別のことを始めて何十年も続ければプロ野球選手と同じぐらい稼げる。それで、ずっと続けられて自分でどんどん大きくしていける仕事はないかなと思ってました」
大学は野球を離れて経営学部に進学。けれども、粗利や純利益などの机上の数字の勉強ばかりで、横谷さんが学びたかった「現場に飛び込むような実践的な経営」とはかけ離れたものでした。それで大学を辞めた横谷さんは、いつか自分で事業をやりたいという思いを密かに抱きながら、稼ぐために建設会社で働くことにしたそうです。
そして20歳の時。メジャーリーグ観戦で初めてアメリカに訪れたことをきっかけに、アメリカのストリートカルチャーに興味を持ちます。
「アメリカの混沌とした自由な文化が、面白いなと。食べ物やお店を通してアメリカのカルチャーに触れることで、自分のやりたいことが少しずつ見えてくる感覚もありました」
それを機に、横谷さんは定期的にアメリカに遊びに行くように。中でも、中古の服や雑貨などを販売している「スリフトショップ」にハマったと言います。
「僕はもともと洋服が好きで、ロサンゼルスから車を借りて移動しながらスリフト巡りをよくしてました。アメリカでは、いらなくなった洋服や雑貨を慈善団体が引き取って安く売っていて、“これヤバいな”というお宝がたまに眠ってたりするんです。あの頃は自分が着たい服を探すために行ってましたが、今思えば、買い付けの個人版ですよね」
アメリカに単に遊びにいくことから、徐々に、将来に向けて学びにいくことにシフトしていったという横谷さん。さらに、ブルックリンでのユニークな古着屋との出会いが、事業を始める大きなきっかけになりました。
「トレーラーハウスが路上に停めてあって、中に入ったら古着屋だったんです。その店主に話を聞くと、いつもブルックリンのまちの中でトレーラーハウスを移動しながら古着を販売していると。これはすごく面白いから、日本でできないかなと思ったんです。お店がお客さんのいる場所に自由に移動して自分の好きなモノを届けられたら素敵だなと」
日本で“走る古着屋”を実現したい。横谷さんはそんなビジネスアイデアを形にするため、会社を退職。日本では法律的に路上での移動販売は難しいため、拠点として営業する店舗を設けながら、週末を中心にトレーラーを利用した店舗でイベント出店しようと考えます。
まずは若手向けの創業支援制度で融資を受け、拠点となる店舗探しをスタートするものの、移動販売用のトレーラーを置けて事務所にも店舗になる物件は見つからず苦戦…。たまたま実家の近くを散歩していた時、国道16号線沿いにちょうどいい更地を発見し、「福生のアメリカっぽさもあって、この更地なら何かできそうとピンときた」と言います。拠点を決めた横谷さんは、移動販売用のトレーラーに加え、事務所兼住居としてトレーラーハウスを購入。株式会社LEF TOKYOを立ち上げ、古着屋のオープンに向けて準備を進めていきます。
アパレル業界のノウハウもなかった横谷さんは、決まったルールに沿ったやり方ではなく、これまでの自分の経験を活かしていったそう。
「アメリカで自分が好きだったスリフトやフリーマーケットに行って自分が着たいと思う服をたくさん買い付けして、自分がいくらなら買いたいかというユーザー目線で値段をつけていきました。実際、トレーラーに買い付けた洋服を並べてみたらいい感じになって。あとは、うちの古着屋とイベントがマッチしないと売れないと思ったんで、アウトドアのフェスやマルシェとか、ロケーションがよくて感度が合うイベントを選んで出店するために営業していきましたね」
こうして、福生の本拠地とイベント出店の二軸で、“走る古着屋”がスタート。最初は売り上げが伸びずに悩むこともありましたが、「これは高いんじゃない?」などのお客さんの声からも学んでいったそうです。
誰もやったことのない新しいスタイルのビジネス。スタートする時に不安はなかったのでしょうか。事業を始めた頃のことを、横谷さんはこう振り返ります。
「“誰もやってないそんなビジネスがうまくいくわけない。もっと考えた方がいい”って、企業に勤めてる人たちには言われることもありました。でも、まだやってないのに何がわかるんだろうと疑問で、こっちの足は引っ張らないでと思ってた(笑) マイナスになることを避けるために考えすぎちゃう人っていっぱいいると思うんですが、ずっとマイナスでなければ最初のマイナスはむしろとるべきじゃないかと。どれだけ作戦を練ってもその通りにいくことはあまりないですし、やりながら考えればいいだけですから」
横谷さんには、トレーラースタイルの古着屋の他にも、やってみたいことがありました。それは、アメリカで見たようなフードトラックでした。
「アメリカでフードトラックの屋台飯をよく食べていたんです。チキンオーバーライスとか、労働者のためのサクッと出てくる早いメシが好きで。収益のために飲食店をやりたいというより、日本でもあんなカッコいいスタイルでフードビジネスができたらいいなと思ってました」
そして2019年に、LEF TOKYOの2つ目の事業としてフードトラックをスタート。アメリカ車のバンを自ら改造し、チキンオーバーライスやタコスなどのご飯と、コーヒーなどのドリンクを販売することにしました。奇しくも、同じぐらいの時期にコロナ禍でイベントがなくなって古着の移動販売が厳しくなり、フードトラックを始めたことが好機になったそうです。
「古着と別の収入があって、余裕を持って古着を販売できた方がいいなという気持ちもありました。洋服はお客さんに本当にいいなと思ったものを買ってほしいから、お金がなくて切羽詰まって押し売りするのはすごく嫌。そんなことも考えながら、新しいことに挑戦したくて」
今は福生の拠点に加え、立川のGREEN SPRINGSでフードトラックを出店し、フードやコーヒー・クラフトビールなどのドリンクを販売。本格的な味や洗練されたカッコいいスタイルでお客さんが広がり、人気店となっています。
「フードトラックは仲介業者が用意した場所を回るのが日本のスタンダードだと思うんですが、どこに出店するかは大事なので自分で選びたい。立川のGREEN SPRINGSはニューヨークのセントラルパークなどを意識したデザインで商業施設ではなくて公園型の施設という話を聞いた時に、ここだ!と思いましたね」
「フードトラックって楽しそうなイメージがあると思うけど、暑いし寒いし忙しいし狭いし、結構過酷」と笑う、横谷さん。それでも、スタッフと一緒に自ら調理や販売を手がけるのは、「良いお店をつくりたい」という強い思いが。フードトラックもより良いお店にするために、そのつど進化させてきたそうです。
「最初は何も考えずにDIYでフードトラックを作ったので使いにくくて。フードトラック作りが得意な人と一緒にオペレーションも考えて、中に一人しか入れなかったのを二人で作業できるスタイルにしたり、アップデートさせていきました。それから、フードもドリンクも本格的にやるには一台のトラックじゃ足りないと、フードとドリンクの車を分けることに。そしたら、調理の作業効率がよくなるしドリンクの幅も広がり、お客さんが増えて売り上げが今までの倍以上になったんです」
お店を良くしていくのにはどうしたらいいんだろう。そんなことをずっと考えながら、「これはよかった、これはよくなかったという試行錯誤を繰り返している」と横谷さんは言います。
開業から4年が経った今。アメリカンスタイルの古着屋と、こだわりのご飯とドリンクを提供するフードトラック。横谷さんにとってはどちらも自分を表現するために必要で、それぞれが相乗効果になっていると言います。
「僕の場合、今ビジネスにしている古着もフードもコーヒーもクラフトビールも、好きでしょうがなくて、突き詰めちゃっただけ(笑) 最初から“これしかない!”と自信があるわけじゃないから、理想に向けて常に学んでそのつどベストを尽くしていく。だから、今日より明日、今年より来年の方がもっと良いお店になっていくんじゃないかなと。何にもできないけどやってみた。そうじゃないと、若いうちから挑戦はできないと思うんです」
最初は自分が楽しいことを追いかけていた横谷さんですが、今は「まちの中でいいことをしたい」という思いも抱くようになったとか。
「まちに感度が高くて良いお店や場所をつくることで、誰かにとって学びがある環境をつくれたらいいなと思ってて。今は福生を含めた西東京エリアでも、良いお店をつくりたい若い人や素敵なお店が増えていますよね。競い合うんじゃなくて、“あのお店のあれはすごくいい”と刺激を受けながらお互い高め合っていけたらいいと思います」
そして横谷さんは今、次のステップとしてやりたいことに向けて動いているそうです。
「僕が4年間やり続けてきて学んだことを詰め込んだ実店舗をつくりたいと考えてます。色々な人とコラボレーションしながら、今来ていただいているお客さんがゆっくりできる場所をつくりたいんです。そんな場所があることで、フードトラックや古着屋も成長できるんじゃないかなと。現状に満足せず、これからもどんどん面白いことを仕掛けていきたいですね」
アメリカ旅からビジネスのヒントを見つけて事業を始め、「やりながら考える」をモットーに、事業を成長させている横谷さん。走る古着屋から始まったLEF TOKYOの挑戦は、これからも形を変えながらも進化していくのでしょう。
2013年 建設会社に勤めながら、アメリカに遊びにいくように
2016年 ニューヨークで移動販売の古着屋に出会う
2018年 株式会社LEF TOKYOを立ち上げ。福生を拠点に古着の移動販売を開始
2019年 フードトラックをスタート
2020年 コロナ禍でイベント中止が続く一方、フードトラックが注目されるように
2021年 立飛ブルワリーと連携し、クラフトビールを販売
株式会社LEF TOKYO代表。あきる野市育ち。2018年に株式会社LEF TOKYOを立ち上げ、福生を本拠地に、トレーラーを活かした古着屋をスタート。今は立川のGREEN SPRINGSでのフードトラックの出店や各地でのイベント出店、ポップアップマーケットの開催など、幅広く事業を展開中。趣味は草野球。
https://leftokyo.theshop.jp
「NEW WORKING」は、福生市・昭島市の魅力創出を目指すワークゼミ&コンテスト。「まちにあったらいいな」というアイデアを募り、地域に根差した新しい事業へと成長を後押しします。あなたの小さなアイデアを、まちで大きく育てましょう。
福生、昭島市内で事業アイデアをお持ちの方
・創業前および創業して間もない方(概ね5年以内)
・申請時点で15歳以上の方
※団体、個人、法人は問いません
※居住地、本店所在地は問いません
※業種業態は問いません(ただし、公序良俗に反せず、社会通念上適切と認められるものに限ります)
グランプリ 1名 30万円
準グランプリ 2名 10万円
※受賞後から令和6年1月30日までに福生、昭島市内での開業が条件です
各種ビジネス支援
・専門家によるハンズオン支援(経営、財務、販路開拓、人材育成など)
・融資相談、店舗事務所の物件相談
エントリー
11月14日(月) 23:59 締切
「まちにあったらいいな」と思うお店やサービスなど、自由な発想で事業アイデアを募集します。
ワークゼミ
11月19日(土)13:00-17:00
@福生市もくせい会館
エントリーいただいた方を対象にワークゼミを開催。アドバイスを受けながらアイデアをブラッシュアップします。
1次審査書類の提出
12月12日(月)23:59 締切
各自が事業アイデアを書類にまとめて提出。いよいよファイナリストを選出します。
最終審査会&グランプリ発表
1月29日(日)12:30-18:00
@TOKYO創業ステーションTAMA イベントスペース
選ばれたファイナリストが、プレゼンテーションを行い、グランプリ・準グランプリを決定します。
福生・昭島地域の未来をつなぐ協議会(構成団体:福生市、昭島市、福生市商工会、昭島市商工会)
公益財団法人 東京都中小企業振興公社
株式会社タウンキッチン