ちょっとした記事

[編集長の酒場談義]絶望の先にある光を届ける/工藤瑞穂さん

今宵、語り合うのは工藤瑞穂さん。障害や難病、LGBT、貧困、格差など社会的マイノリティの人々が持つ可能性が広がる瞬間をインタビューやイベントを通して紹介するメディア、soar(ソア)の編集長です。彼女が故郷東北から上京してきたのは今から5年前。当時、リンジン編集長が小金井で主催していた起業プログラムに参加したのがキッカケでした。それ以来の久しぶりの再会。soarの事務所にほど近い目黒川沿いのお店で、懐かしい話に花を咲かせます。

生きていく領域を見つける

北池
でもやっぱりあれだね、多摩地域から中目黒は遠いね(笑)。前に会ったのは確か、工藤さんが小金井神社の朝市に来てたときかな。3年前くらい。

工藤
ああ行きました!soarを作って12月で丸3年経つので、できるかできないかくらいの時です。

北池
3年か。いやあ、よくぞここまで事業を形にしたなあって感心してるよ。

工藤
ありがとうございます(笑)10月からフルタイムのメンバーが2人も入るんです。

北池
お、ということはちゃんと経営面でも自立してきているんだね。

工藤
団体自体はまだまだ黒字とは言えないですが、毎月サポーター会員さんからご寄付もいただけて、すごく嬉しいです。なんらかの当事者の方も寄付してくださってますが、クリエイティブな分野の方や起業家など、これまでのソーシャルセクターではなかなか繋がらなかった人たちも共感してくれてます。

北池
そうなんだ。それは意外。

工藤
起業家やフリーランスの方は個性が強くて、実は学校とか企業とか、いわゆる“一般的”な社会に適応できなかった方も多くて、自分で居場所をつくってきた人もいるんです。心がすごく繊細だったり、発達障害がある方もいたり。それで、「常識を気にせず自分らしく生きれたらいいよね」というところに共感をしていただけているみたいなんです。

北池
なるほどね。東京に出てきたころの工藤さんは、HaTiDORiっていう屋号で地元の仙台とかでイベントをやってたよね。古民家を借りてみたり。あのときに、起業プログラムの他のメンバーと毎月集まって事業プランをブラッシュアップしていたけど、少なくとも、あのモヤモヤしていた当時に今のsoarの姿は俺には見えてなかったなあ。でも、今になってみると紆余曲折が必然のように見えて、「工藤さんがやりたかったことって、こういうことだよね」って思える。それが面白いなと思って。

工藤
ああ、確かにそうかもしれないです。

北池
当時から、工藤さんには発信力はすごくあったよね。一方で、上京する前には新卒で赤十字病院に入社して長年はたらいてたりとかもして。そういう工藤さんの持ってる色んなエッセンスをかき集めたら、結果、soarが出来ちゃった、みたいなことなんだろうなとは思ってて。

工藤
そうですね。そういう意味では、メディア運営や編集のプロの方たちと出会えたのも大きかったです。あとは、いろんなしごとを経験していくなかで、感性だけだった自分に多少のロジカルな考え方が加わったのかも。soarを立ち上げる前は、困難に出会った人に対して、デザインやビジネスなど様々な手法を使ってそんな人たちの可能性を広げていこうとしている素晴らしい活動がたくさんあることを知って、同時にその2つが繋がっていない現状も感じていました。何をしたらひっくり返るんだろうと考えていたとき、「情報だ!」っていうところに辿りつけたんです。

大学時代はストリートダンスをしていた工藤さん。「今でも私はギャルだと思ってますよ(笑)」

北池
なるほどね。soarとして、どういう領域でやっていきたいというのはあるの?

工藤
発達障害とかもそうですけど、その分野を専門に取り組んでらっしゃる団体さんは他にたくさんあって。なのでsoarでは、もっと世間に知られていない情報を意識して紹介するようにしてます。他の団体が対象にしてないテーマは、情報がないってことだと思っていて。

北池
うんうん。他の団体やメディアの網目にかからなかった少数の方のフォローをやっていくってことね。

工藤
はい。その結果、メディアとしてわかりやすいというか、特徴がでてきたのかもしれません。例えば、難病はものすごく数が多くて知られていない物も多いので、ほとんどの方が馴染みがないと思います。そういう病気って、患者さんが少数がゆえになかなか情報が表に出てこないんです。

北池
なるほど。でも、確実にそういう方は社会にいるし、そのご家族もいて。実は私たちの隣に普通にいる人なんだっていうことを日常生活で意識しづらいのかも。身近にいるってことを隠そうとする風潮も、昔はあったのかもしれないし。

工藤
家族が認知症になったとき、近所での評判を気にして隠そうとするという話を聞きます。うつ病になったかもしれないけど、恥ずかしいことだと感じて隠したがって、病院に行きたくないという人も多いですよね。もちろんすべてを話さなければいけないわけじゃないけど、それでしんどい思いをするのもつらいと思うんです。

北池
社会の中に普通にいることがわかって、それが許容できればもっと生きやすくなる。でも、それが難しいんだね。

工藤
本当にそうだと思います。うつ病の患者さんも多いですし、多かれ少なかれ、人は何かありますよね。

ポジティブなモチベーションに動かされて

工藤さんはサワー、北池はビール派。

北池
工藤さんがsoarをはじめたのって、どうしてなんだろう。例えばご家族やご親戚に難病の方がおられて、それを幼少期から見ていて…といった原体験があるのか。そうじゃなくて、なにか別の理由があるのか。

工藤
そうですね…私のモチベーションは誰かを助けるっていうよりは、自分が素晴らしいと思うものを広めたいという、ポジティブな方にエネルギーが向いているなと思っています。

北池
なるほどね。

工藤
実はこの前、大好きなおばあちゃんが亡くなったんです。末期ガンだったので家族は何回も病院に行って、近所の人や親戚もみんな葬式にも全員参列してという、優しい光景を目にしました。でも、そのとき私は「こういう見送り方をしてもらえない人も世の中にはいるんだ」という方に頭がいってしまうんです。笑顔の子どもを見た時に、「世の中には笑えない子もいるんだ」って方に頭が飛ぶ。

北池
ふむ。

工藤
だからこそ、できなかったことができるようになるとか、ネガティブがポジティブに変わる瞬間に目が向いていて、それを多くの方に届けることが大事だと感じるのかもしれません。その情報が届くことで他の誰かの助けになる、みたいな。誰か一人の苦しみって、実は何十万人ぐらいが苦しんでることが多いから。

北池
いつからそういう考えを持つようになったの?

工藤
個人的な経験で言うと、親戚が統合失調症になって、精神病棟を一生出られないって言われたことがあるんです。もっと手前でなんとかできてたら…と思って色々調べ始めました。例えば、北海道に統合失調症の人が一緒に暮らしながらはたらいている場所があることを知ったり…

北池
なるほど。そういう体験があったんだね。

工藤
自分が素晴らしいと思うものを発信したいという思いは、東京に出て来た頃にすでにあったけど、当時はその手段がなかったんです。障害は障害、病気は病気、LGBTはLGBTってバラバラにあるものが、本当はつながる一点があると思っていて、結びつける新しい枠組みを作りたかったんです。

北池
うんうん。soarが大切にしている価値観だよね。それは記事を見ていても伝わってくるよ。

soarの代表として大学の授業に呼ばれることもある工藤さん。トークイベントや講演で思いを語る機会も年々増えています。

中目黒の酒場談義は、焼鶏あきらの炭火焼き鳥でオシャレに。

“絶望”と向き合う人のマネジメント

北池
とは言え、いろいろ大変な部分もあるでしょ。

工藤
知っていくと、こんなにつらい状況をどうやったらよくできるだろう?と絶望的な気持ちになることもありますね。

北池
だと思う。いくつか記事を読ませてもらって、重い気持ちになってしまうこともあって。そういうことって考えないで生活してる方が楽だから。自分に重い荷物を持つような感覚になるというか。

工藤
そうですよね。絶望する方が楽っていうのはやっぱりあると思います。自分には何も出来ないな、知りたくないな、と思う方が楽に感じてしまうから。

北池
確かに…。

工藤
soarの記事の編集をするなかで、インタビューイがとてもつらい経験をされている方だと、自分にもそのつらさが伝わってきてしまうこともあります。ポジティブな瞬間がほとんどですが、真剣に丁寧に取り組んでいるからこその負荷もあると思うんです。

北池
取り扱うテーマがテーマだけに、大変なんだね。

工藤
そうなんです。それで、スタッフたちには毎朝、今日の気分と体調をオンラインで報告してもらうとか、月1回カウンセリングとコーチングを受けてもらうとか、そういう工夫はしています。soarのスタッフは感性が素晴らしい人たちが多くて。その感性を活かすためには、みんなの心と体を大切にできる組織づくりをするしかないと思って。

北池
ちゃんと考えてやってるねえ。

工藤
(笑)でも、自分ができることと、できないことの自覚はすごくあるんです。NPOなので、何でも理事に相談しないと決められないというのは、良かったかもしれないなと思っています。

すき焼きからシメは親子丼に。

北池
今後は?

工藤
soarとしてもっと雇用をしたいっていう気持ちもあります。病気や障害があっても障害者手帳がなくてサポートを受けられず、生活やしごとに困っているという人もいっぱいいるから。はたらきたい気持ちもスキルもあるんだけど、発達障害の特性があってはたらき続けられないとか、精神疾患があったり、高齢者の方もそうですよね。

北池
なるほどね。工藤さんは自分にできないことがあった時に、それができる人に味方になってもらう。そのために、事業の価値だったり日々の関係性を築いていくところにエネルギーを注いでるんだろうな。お金だけではない仲間づくりというか。この指とまれの世界をどう作っていくのかっていうことだと思う。そこが工藤さんはうまいよね。

工藤
ほめられた(笑)。ありがとうございます

北池
soarが立ち上がって3年。工藤さんの持つ旗の周りに多くの人がいて、それぞれが自分にできることを分かち合おうとしているのがよくわかる。この輪が、メディアだけでなく、これからもっと大きく広がってくるんだろうな。

工藤
北池さんのとこにも、また遊びにいきます!

北池
ぜひ。引き続き、よろしくおねがいしまーす!

再会してすぐ打ち解けた雰囲気で話しはじめた2人。懐かしい話があるからこその和やかな酒場談義でした。

プロフィール

工藤瑞穂

NPO法人soar代表理事・ウェブメディア「soar」編集長。1984年青森県生まれ。宮城教育大学卒。仙台の日本赤十字社で勤務中、東日本大震災を経験。震災後、仙台で音楽・ダンス・アートと社会課題についての学びの場を融合したチャリティーイベントや、お寺、神社など街にある資源を生かしたフェスティバルを地域住民とともにつくる。2015年12月より、社会的マイノリティの人々の可能性を広げる活動に焦点を当てたメディア「soar」をオープン。2017年1月に「NPO法人soar」を設立。イベント開催、リサーチプロジェクトなど様々なアプローチで、全ての人が自分の持つ可能性を発揮して生きていける未来づくりを目指している。

https://soar-world.com