地元でコーヒー屋に転身した2人

2024.09.05
地元でコーヒー屋に転身した2人

ワークゼミ&コンテスト「NEW WORKING」連動企画、「武蔵村山の実践者たち」がはじまります。
立川市の北側に位置する武蔵村山市。そのちょうど真ん中あたり、学園1丁目に2023年、コーヒー店が誕生しました。その名は「SÜ COFFEE(スーコーヒー)」。注文が入ってから豆を挽き、ハンドドリップで淹れるのは、こだわりの浅煎り。「地元に美味しいコーヒーと一息つく時間を提供したくて。カフェではなく、コーヒー店なんです」。店長の平野俊太さんはそう話してくれました。
SÜ COFFEEは平野さんと、共同経営者の加藤春捺さんのこだわりがつまったお店です。開店するまでのお話と、開店してから今までの、ふたりの軌跡を伺いました。

SÜ COFFEEができるまで

平野さんと加藤さんが出会ったのは、SÜ COFFEEを始める前に働いていた武蔵村山市にある雑貨店です。

平野俊太さん(以下、平野) 「僕は生まれも育ちも武蔵村山で。実家もすぐそこにあるんです」

加藤春捺さん(以下、加藤) 「私は立川市出身でしたが、結婚して、武蔵村山に家を建ててこっちに来ました」

ふたりが出会った雑貨店では、スタッフの年齢層が比較的高めでした。その中で平野さんと加藤さんだけが20代だったため、自然と仲良くなったのだとか。

平野 「一緒に行った『GREENSTAMPS COFFEE』というコーヒー店で、スペシャルティコーヒーを飲んで、衝撃を受けました。それまでは、コーヒーに特別な思い入れもなく、コンビニのコーヒーの味に慣れていたので、同じものだとは思えなかったんです。こんなにもフルーティーで口に広がる飲み物だったのかと、感激しました」

加藤 「私自身も、実はコーヒーは苦くて苦手でした。飲まないわけではないけれど、ミルクを入れたり、甘いものと一緒でないと飲まないという感じだったんです」

店長の平野俊太さん。会社を辞め、27歳でSÜ COFFEを開業した
店長の平野俊太さん。会社を辞め、27歳でSÜ COFFEを開業した

スペシャルティコーヒーとは、豆にとって優れた環境で生産された、雑味のない良い風味を持つ高品質なコーヒーのことです。その特徴は、栽培地域の風土、自然環境、品種により生み出される固有の風味や個性に重点を置いていること。一般的なコーヒーとは一線を画す味わいを持ちます。酸味、風味、甘さ、液体の透明度などで価値が決まるため、豆の特性を最大限に引き出す浅煎りで提供されることが多いそう。

加藤 「コーヒーは苦いものだと思っていたので、フルーティーですっきりした浅煎りのスペシャルティコーヒーを飲んだときは同じ飲み物なのかと驚きました。これまで、スイーツとセットとして考えていたコーヒーが、それだけで主役になる華やかさがあるんだと驚いたんです」

コーヒー本来の魅力を追求し、豆の個性を大切にした特別な一杯。その美味しさに目覚めたふたりは、スペシャルティコーヒーを求めてあちこちに足を運ぶようになりました。

平野 「特によく行っていたのは福生市にある『CAFE D-13』というお店です。米軍ハウスをリノベしてできたお店で、おしゃれで居心地が良いんです。武蔵村山からは比較的近いので、よく癒されに行きました」

毎日9時から11時まではモーニングのセットメニューでもコーヒーが楽しめる
毎日9時から11時まではモーニングのセットメニューでもコーヒーが楽しめる

ところが、ちょうどコーヒーの美味しさにのめり込みはじめた頃に、コロナ禍による自粛期間がはじまります。平野さんは家で1人、美味しいコーヒーの淹れ方を研究するようになりました。

平野 「ハマるとのめり込むタイプで。コーヒー豆農園の立地や生産方法、さまざまな種類について、ウェブサイトや文献から勉強しました。豆の挽き方と、ドリップの仕方などで味が変わるんです。うまくいけば、驚くほど美味しい味を引き出せることがわかりました。その掛け合わせの工程などに、おもしろさと歓びを感じました」

コロナ禍も徐々に明け、勤務先の雑貨店で再会したふたりはまた、コーヒー店に足を運ぶようになります。

加藤 「都心や都外に行かずとも、もっと気軽に飲めればいいのに、とよくふたりで言っていました。美味しいコーヒーが地元で飲めれば、いつもの日常がちょっと良くなるんじゃないかと思って」

平野 「実際、家で豆を仕入れ、美味しいコーヒーを自分で淹れられるようになり、生活が豊かになった気がしました。地元の武蔵村山のみんなにも、そんな日常をを提供したいな、と。僕は生まれも育ちも武蔵村山で、あまりここから出ることを考えていないんです」

普段使いできるスペシャルティコーヒーの店を地元に。その想いが膨らみ、平野さんは加藤さんに声を掛け、ふたりでコーヒー店を開業することにしたのです。

前職の雑貨屋で平野さんと意気投合した加藤春捺さん。「コーヒーが好きだからコーヒー屋やろっか!自分達の住む街にコーヒー屋さんほしい!」という思いのもと、一緒にコーヒー店を開くまでに
前職の雑貨屋で平野さんと意気投合した加藤春捺さん。「コーヒーが好きだからコーヒー屋やろっか!自分達の住む街にコーヒー屋さんほしい!」という思いのもと、一緒にコーヒー店を開くまでに

コンセプトは「ちょっといい日常」

その頃、平野さんは前職である雑貨店の店長に昇格していました。そんな立場を捨ててまで、ある意味挑戦ともいえるコーヒー店開業を選んだ当時、どんな想いだったのでしょうか。

平野 「周りも独立している人が多いので、そんなに特別な感じではなかったですね。コーヒーに出会った時点で、いつかは提供できる側になりたいと思っていたのだと思います」

加藤 「私も声をかけられてそんなに悩まなかったですね。やってみたいの気持ちが先行しました」

ふたりにとって、会社勤めを辞めることは、肩ひじの張った一大決心ではなく、「やりたい」という気持ちにしたがった自然な選択だったようです。しかし、開業するとなると、金融機関から融資を受けたり、物件を探したりと、やることは山のようにあります。

平野 「何もわからないので、周りの人に教えてもらいながら、1つずつやっていった感じです。『GREENSTAMPS COFFEE』のオーナーに相談したら、まずは物件探しからと言われて。コーヒーについての基本から、お店の開業についてまで、いろいろと教えてもらいました。本当に何も知らないところからのスタートでしたね」

物件選びには半年以上かかり、予算や立地などを考慮して今の場所に決まりました。

加藤 「ここは元は理容店だった物件です。そこをふたりでリフォームしました。電気や水道周りはプロに任せましたが、店内の壁を塗りなおしたり、スタンドを作ったり…2か月くらいかけて完成させました」

雑貨店に勤めていたころに好みの雰囲気を共有しあっていただけあり、店内のデザインでぶつかることはなかったとか。ふたりの理想のつまったSÜ COFFEEの店内は、観葉植物や、こだわりの机や椅子がゆったりと配置され、居心地のよい空気で満たされています。

店内は忙しい日常から少し離れ、ゆっくり息ができる空間に
店内は忙しい日常から少し離れ、ゆっくり息ができる空間に

加藤 「私がもともと好きで集めていたビンテージの椅子を持ち込んだりもしました。雑貨店で空間デザインをしていた経験が活きたと思います」

平野 「店内の家具はどれもビンテージです。1つずつどれが店に合うかと相談しながら揃えました。マグカップやお皿もこだわっています。どれをセレクトすれば日常を少し良くする時間をすごしてもらえそうかな、と考えて選びました」

こうして2023年5月27日に、SÜ COFFEEは開店を迎えました。

ふたりの好きなインテリアがあふれる店内では、知り合いの古着屋さんとコラボショップを開くこともある
ふたりの好きなインテリアがあふれる店内では、知り合いの古着屋さんとコラボショップを開くこともある

SÜ COFFEE、その名前に込めた想い

武蔵村山の人たちへ、スペシャルティコーヒーを通してちょっといい日常を届けたい。その想いが、お店の名前にも込められています。

平野 「響きが呼吸みたいで、一息ついてほしいという想いに合っていましたし、なによりも覚えやすくていいなと思って。最初は仮名くらいの気持ちでいたのですが、アルファベットにしてみたらこれ以外に考えられなくなって、正式にSÜ COFFEEにしました」

加藤 「来てくださった方みんなの“ちょっといい普通の時間”をすごしてほしい。開業前も、その後も、変わらない気持ちです。店内も、ちょっと和める温かさを意識しています」

そんなSÜ COFFEEの合言葉は「すーでふぅ~しよ」。お店に入ったら、スイッチがオフになる。仕事や家事に追われる毎日の中のオアシスのような存在です。

SÜ COFFEEの「U」が「Ü」なのは、笑顔のようで可愛らしいと、この表記に
SÜ COFFEEの「U」が「Ü」なのは、笑顔のようで可愛らしいと、この表記に

扉に描かれたSÜ COFFEEのロゴともいえる線描のイラストは、友人のイラストレーターの方に描いてもらったそう。応援してくれる仲間がたくさんいるのがふたりの強み。1周年記念のTシャツも友人がつくってくれたのだとか。

平野 「SÜ COFFEEと大きく書かれたTシャツだと、店内でしか着れない。普段着として自分が着たいと思うデザインにしてもらいました。Tシャツにプリントした写真は、以前に旅先の中国で、僕が撮影した写真なんです」

普段の生活に馴染むことを大切にしているふたりの想いがオリジナルグッズにも表れていました。

SÜ COFFEE1周年の記念に作成したTシャツ。中国の街角での日常がプリントされている
SÜ COFFEE1周年の記念に作成したTシャツ。中国の街角での日常がプリントされている
コーヒーやお菓子を持って、横田基地のファーマーズマーケットに出店することも
コーヒーやお菓子を持って、横田基地のファーマーズマーケットに出店することも

お客さんがくつろいでいる店内を見るのが幸せ

「カフェではなく、コーヒー店」と口を揃えるふたり。SÜ COFFEEはあくまでもコーヒーが主役のお店です。

平野 「フードメニューも、コーヒーに合ったものを考えてメニュー化しています。コーヒーだけの提供も考えたのですが、それだと他のお店に行って、お腹を満たしてからうちに来ることになる。お客さんにとっては面倒だろうなと思い、フードメニューを少しずつ充実させています」

インタビューに伺った際のコーヒーのラインナップは全部で5種類。今はふたりが惚れこんだ蔵前の「LEAVES COFFEE」と所沢の「lit coffee service」から豆を卸してもらっています。
コーヒーは、その豆の特徴を知ったうえで飲むことで、香りと味にさらに広がりが出るところが魅力だと語る加藤さん。

加藤 「スペシャルティコーヒーは、必ずフレーバーが何かに例えてあるんですけれど、その説明を知ったうえで飲むと、香りも味も、飲んだときにさらに広がるんです。それが一番の魅力だと思っています。普通に食べてもおいしいイチゴを、その美味しさを言葉で説明してもらってから食べると、よりおいしく感じませんか? スペシャリティコーヒーのおいしさは、言葉と連動することで、倍以上になる気がしています」

お店には地元の人、コーヒー好きな人、ふたりの友人たちが集まっている
お店には地元の人、コーヒー好きな人、ふたりの友人たちが集まっている

メニューには、コーヒー農園名と、その農園が位置する標高(Altteude)、煎り方(honey、washed、natural)とフレーバーの説明が載っています。コーヒー豆は通常、寒暖差が大きい方が味に奥行きが出るため、標高の高さが味の目安になるのだとか。メニューを見ながら味の説明をしてくれるふたりと会話を楽しみ、今日の一杯を決めることができます。

加藤 「提供するコーヒーは、自分たちが自信を持っておすすめできるものです。ふたりで『このコーヒー美味しい』と試飲しながら、今日も美味しいコーヒーが提供できるぞと思う時間が幸せです」

平野 「カウンター越しに店内を見たときに、お客さんがそれぞれの時間をすごしているのを見ると、嬉しくなります。この光景を見るためにお店を開いたんだなと噛み締める瞬間です」

心から推せるものを提供したい。微妙なコーヒーの味の違いを1つずつ説明してくれる
心から推せるものを提供したい。微妙なコーヒーの味の違いを1つずつ説明してくれる

つかず離れずのいい距離感

ふたりの役割分担は特にありません。「どちらかがお休みしても、回せるように」と、コーヒーもフードも、ふたりとも提供できるようにしているのです。どちらかというと少しずつ言葉を選びながらゆっくり話す平野さんを、うまくフォローしながら話す加藤さん。ふたりは最強のペアに見えますが……。

加藤 「けっこうケンカもしますよ(笑) スイーツがうまくできなかった時なんかに『おいしくない』とストレートに言われて、カチーーンときたり(笑) お互い様なんですけどね」

開業を考え始めた当初、コーヒーを中心にしたお店を目指していたため、スイーツのメニューは考えていなかったそう。しかし、話し合いを重ねる中で、お客様が一息つくときにはスイーツやフードも必要だと気付いたのだそう。そこから、気になったレシピを参考にしながら独学で試作を重ね、メニューを充実させていきました。

明確な役割分担がないからこそ、日常のコミュニケーションを大切にしている
明確な役割分担がないからこそ、日常のコミュニケーションを大切にしている

平野 「お互い、あまり遠慮しないで言い合うので、険悪になることもあります。でも、ふたりでやっててよかったと思います。1年店をやってみて、一通り経験してみて思うことは、やはり経営って大変だな、ということです。前職の店長の経験のおかげで、仕入れや経費の計算などは慣れていたのですが、それでもやっぱり自分のお店だと、感覚が違いました。悩むこともあるけれど、一緒にやってくれる人がいるので、心強いです」

補完しあいつつ、お互いに独立しているようにも見えるふたりは、まさに“共同経営者”。美味しいコーヒーを用意して、これからも地元・武蔵村山の人たちが深呼吸しに来るのを待っていてくれています。(田中)

平野さんと加藤さんのSTORY

2018年 平野さんが株式会社ダルトン(雑貨店)に入社、武蔵村山店勤務に
2019年 加藤さんが入社、同じく武蔵村山店勤務に。すぐに仲良くなり、スペシャルティコーヒーにハマる
2019年中ごろ 平野さんダルトン武蔵村山店の店長に
2020年 コロナ禍になり平野さんは家でコーヒー研究に勤しむ
2022年半年~ ふたりでのコーヒー店開業を決意し、1年ほどかけて物件探し
2023年年明け 融資申請用の事業計画など書類を準備
2023年3月末 ふたりともダルトンを退職
2023年4月頭 賃貸契約、店内のリフォームなど準備を開始
2023年5月末 SÜ COFFEE開業

プロフィール

平野俊太

SÜ COFFEE店長、オーナー。武藏村山市で生まれ育ち、美容師、雑貨店「ダルトン」の武蔵村山店店長を経て、「地元に美味しいコーヒーが飲める場所を」との思いで2023年にSÜ COFFEEを開業。

加藤春捺

SÜ COFFEE共同経営者。立川市出身。結婚を機に武蔵村山市に引っ越し、雑貨店「ダルトン」への入社を機に平野さんと出会う。スペシャルティコーヒーの美味しさに目覚め、会社を退職して開業。

https://www.instagram.com/_su_coffee/

INFO

ワークゼミ & コンテスト in 武蔵村山 NEW WORKING

「NEW WORKING」は、武蔵村山市の魅力創出を目指すワークゼミ&コンテスト。「まちにあったらいいな」というアイデアを募り、地域に根差した新しい事業へと成長を後押しします。あなたの小さなアイデアを、まちで大きく育てましょう。

対象

武蔵村山市内で事業アイデアをお持ちの方
・創業前および創業して間もない方(概ね5年以内)
・新規事業の立ち上げを計画している方
・申請時点で15歳以上の方
※団体、個人、法人は問いません
※居住地、本店所在地は問いません
※業種業態は問いません(ただし、公序良俗に反せず、社会通念上適切と認められるものに限ります)

奨励金

グランプリ 1名 30万円
準グランプリ 2名 10万円

スケジュール

エントリー
10月7日(月) 23時59分締切
「まちにあったらいいな」と思うお店やサービスなど、自由な発想で事業アイデアを募集します。

ワークゼミ
10月12日(土)14:00-17:30 @緑が丘ふれあいセンター
エントリーいただいた方を対象にワークゼミを開催。アドバイスを受けながらアイデアをブラッシュアップします。

1次審査書類の提出
11月11日(月)12:00締切
各自が事業アイデアを書類にまとめて提出。いよいよファイナリストを選出します。

最終審査会&グランプリ発表
12月15日(日)14:00-18:00 @TOKYO創業ステーションTAMA イベントスペース
選ばれたファイナリストが、プレゼンテーションを行い、グランプリ・準グランプリを決定します。

主催

武蔵村山市

運営

株式会社タウンキッチン

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