高尾山名物の三福だんごやビアマウントをはじめ、蕎麦からイタリアンまで幅広い高尾グルメを手がけるのが、株式会社アーバンです。同社が行うビジネスは、困りごとの解決が一つの軸になっています。知見の有無に関係なく、できる方法を考え軽やかに一歩目を踏み出す。そんな姿勢を貫いてきたからこそ全てが身となり、いざというとき他者に伝播できる独自の強みがあります。そんなアーバンの歩みを振り返ると、そこには試練を乗り越えてきた企業にこそ備わる思考がありました。観光地が苦境に立たされる今をどのように受け止めるのか、代表の佐藤久牧さんと総務課課長の高田誠一さんにお話を伺いました。
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今ではおなじみとなった高尾山の三福だんごやビアマウントをはじめ、高尾エリアを中心に多彩な事業を手がける企業・アーバン。はじまりは、東京競馬場内に開店した一軒の立ち喰いそば屋でした。創業当初、しごとの多くは佐藤さんが持つ様々な人との繋がりを発端に広がっていったそう。一つのしごとと真摯に向き合うと、自ずと次のしごとにつながる、そんな積み重ねが今日までのアーバンを作ってきました。
“食”という軸こそあれ、もともとはビアガーデンの経営もだんごの製造も、前例となる事業やノウハウがあり取り組んだものではありませんでした。それでも、相談を受け、新しい何かを通して人のため地域のためになれるとあれば、佐藤さんは「やりましょう」と答えてきたといいます。
「始めはもちろん、様々な困難に直面し、うまくいかないことも多いです。試行錯誤の中で批判を受けることもあります。それでも修正と工夫を重ねることで、成果に結びつきました。地道に取り組んだことが実績となり認められると新しい相談事が舞い込む、そんなふうに事業を展開してきました」
しかしなぜ、知見や経験を持ち合わせない全く新しい事業に対し、失敗の恐れやリスクに屈することなく軽やかな返事で応えることができるのか。佐藤さんは言います。
「必要とされていることは何か、私たちに解決できることは何か、そんな視点で常に地域を見ています。そうすると、方法やアイデアは後からでもちゃんと出てくるんです」
地域に目を向けることで生まれた店の一つに、八王子産の自然薯を使用したとろろ蕎麦を提供する、高尾の桜があります。とろろ蕎麦は高尾山名物ですが、数ある蕎麦店を見渡しても食材が八王子産ではない。そのことに持った違和感を、佐藤さんは放っておきませんでした。ないのなら、作ろう。地元農家と連携をして試行錯誤を重ねながら、八王子産と自信を持って言える自然薯の収穫を実現し、作り手も消費者も誇りを持てる地元のとろろ蕎麦を作り上げました。
髙田さんが「発明家のよう」と表現するほどに湧いてくる、前例の有無をものともしない佐藤さんのアイデアは、現場である地域の人々や特徴、素材に目を向けてこそ出てくるものです。
そして、それと同じくらい佐藤さんの目線は従業員にも向けられていました。例えば、店で使用する麺を自家製に切り替えた理由は、常に一番近くにいる従業員のためでした。
「麺って長持ちさせるために添加物が多く含まれている食品なんですが、業務用ともなると尚更、原材料表記も完全ではないんです。そういう中で、店の料理を一番食べているのは、うちの従業員なんですよね。利便性や安さから選ぶ材料ではなく、体に良い誠実な素材を使いたいとずっと思っていました。であれば、おいしくて安全な麺を自分たちで作ってしまおう、それで自家製麺を作ることにしました」
新事業や商品づくりのために重ねる研究開発があります。しかし、それはあくまで過程に過ぎません。何を解決したいのか、何を良くしたいのか。アーバンでは、根本的な問いがあってこそ新しいものが生み出されていたのです。
近くにいる人を見つめて行う事業作りは、社長である佐藤さんだけではなく、従業員にも浸透しています。
アーバンには、三福だんごの製造販売を通じて得たノウハウを、他の観光事業者に提案するだんご事業部があります。自家製だからこそ蓄積されたノウハウを困りごとの解決に活かすことで、また価値が生まれるのだと髙田さんは言います。
「私たちは、単にだんごの作り方や売り方を提供しているとは思っていません。事業部メンバーは、日頃から観光地が抱える課題を、現場の人たちの声を通して知っています。『場所はあるけれど売るものがない、売るものはあるのに人が来ない』そんな切実な困りごとの解決こそが、私たちが届けたいものです」
日常的に地域を回り、現場を知るメンバーだからこそ、今回の新型コロナウイルスによりいかに観光地が影響を受け、苦しんでいるかを知っていました。今こそ、自分たちができることを、東京で観光を楽しめる日常が戻ったときにすぐに動き出せる後押しをしよう、そんな想いから独自のプロジェクトが生まれます。
それは、だんご製造の豊富な経験を通して得た食品への写真や文字のプリント技術と、その土地の原料使用にこだわるだんごの製造販売を支援するというものです。それぞれの土地でしか作れないものを使って、その地域が活きる方法を提案するのです。
「何のために自分たちはこの事業を行っているのか。それを突き詰めて考えた事業部のメンバーから上がった声が、こうしてプロジェクトになりました。やっぱり私たちの根底にあるのは、困っている状況を何とかしたい、という気持ちなんですよね」
今、新型コロナウイルスの収束に明確な終わりが見えない中、事業をする全ての人が困りごとを抱えざるを得ないような状況にあります。佐藤さんと髙田さんは、こうした今を前に何を想うのでしょうか。
この先を担う世代として、アーバンのこれまでの歩みを噛み締めつつ髙田さんは言います。
「コロナ禍では、改めて地域でつながることの大切さを感じています。これからは、地域の中に溢れる様々な人、多様なニーズを、私たちがいかに多様な価値観で受け止められるかが大切だろうと思っています。何事においても選択肢が増えた時代、最後に残るのは、人の心を動かせるもの。ニーズや困りごとをキャッチしながら、地域から愛される店や商品づくりをしたいです」
新型コロナウイルスを機に、これまで厳しくても踏ん張ってきた観光地がついにシャッターを下ろす決断をする、ということがきっと増えてしまうだろうと現実を見つめつつ、佐藤さんは軒下のあり方に注目をしています。
「人が訪れたくなる景色をまちに作るためには、いかに圧倒的に輝く軒下が溢れる場であるかどうかが重要だと思っています。こんな難しい状況ですが、それこそ店作りの経験を活かし私たちにできることなのではないかと考えています」
どんなときも突破口を見つけてきたアーバンだからこそ、先が見えない中でも、凝らした目で地域を見つめ、今できることの連続でよりよい未来を作っていく。困難な状況にあるときこそ、目線は近く、そばにいる人の困りごとを見落とさない。これからも、佐藤さんと髙田さんは高尾の街を通した視点で地域を、社会を見つめます。
【リンジン X たましん連携企画】
多摩信用金庫はコロナ禍での地域の飲食店や事業者を応援しようと、テイクアウト・デリバリー店舗やクラウドファンディングのプロジェクト情報を集約したウェブサイト「エールの扉」を開設しました。今回、エールの扉とリンジンがタッグを組み、そうした情報の裏にある事業者の想いや、コロナを乗り越える取り組みを記事でお伝えしています。
※特設ウェブサイトは公開を終了しています。
1990年に株式会社アーバンを創業。高尾山ビアマウントでは、ビュッフェ形式の導入をはじめ、世間に馴染みのなかった山頂でのビアガーデンに注目を集めるなど、常に時代を先取る事業を切り開いてきた。
調理専門学校を卒業し、料理人としての道に進んだあとに株式会社アーバンに参画。入社当初はビアマウントや飲食店店舗での勤務も兼ねながら現場での経験も積む。現在は今後のアーバンを担う一人として総務部課長を務める。
株式会社アーバン
https://www.urban-inc.co.jp/